第5話

2.自由の国から来た王子
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2018/09/14 03:23
夏も本番! 梅雨明け宣言もまだなのにすでに気温は圧倒的な夏! テストも終わり、終業式を終えれば高校二年の夏休みが始まる。
前原 奏
前原 奏
宇城は顔だけなら超絶にいいんだから、もう顔で推しなよ、顔で!
男女六人で教室の机や椅子に腰かけて話す放課後、奏がそんな失礼千万なことを宇城朔哉くんに対して言い放つ(ちなみに幼なじみの奏は無事わたしと同じ日向坂高校に合格、もといわたしが無事に奏と同じ日向坂高校に合格)。

二年三組の教室は西日が大量に入り、遅い時間のほうが明るいくらいだ。
多田山 結人
多田山 結人
前原、それはめっちゃ朔哉に対して無礼だぞ。……当たってるだけに
ぎゃはは、と豪快に笑う多田山くんのほうがよっぽど失礼かも。ちなみに多田山くん、多田山結人くんは宇城くんの親友だ。
森本 駿平
森本 駿平
マジだ! それは逆に言えば朔哉には顔以外いいとこがない、って断言してるようなもんじゃん
この発言は同じく宇城くんの親友の森本駿平くん。

三人は男子サッカー部の要で超仲良し。もうじき部長交代の時期で、多田山くんが部長で森本くんが副部長になるらしい。

エースは宇城くんなのに、もろもろの理由で部長・副部長には適していないと判断されたとの噂だ。
吉住 凜子
吉住 凜子
だって実際そうじゃん! バカだしうるさいし、ガサツだし幼稚だし空気読めないし、大幅にズレてるし女子に対するデリカシーなんて、おお新しいデリカ! 美味いのか? ってな感じじゃなーい?
凜子の物言いも奏に負けず劣らず厳しい。

前原奏と吉住凜子、これが二年三組で仲良くしているわたしの親友二人だ。

幼稚園に入る前からのつき合いの奏は、わたしのことはなんでも知っていると言っていい。わたしはしっかり者の奏に今も頼りっきりという不甲斐なさ。
前原 奏
前原 奏
宇城朔哉は残念イケメンの代名詞。完全なる観賞用! ま、それが学年を通しての共通認識だね!
と、ここで奏が、茶色く染めた長い髪を後ろに払いながらダメ押しをする。
宇城 朔哉
宇城 朔哉
別にぜんぜんいいよ、それで。俺、好きな子以外にモテたいと思わねえもん
気分を害したそぶりもなく、宇城くん本人はつむじのあたりを人差し指で掻いている。
多田山 結人
多田山 結人
でもその好きな子にはめっちゃモテたいんだろ? だからこうして女子に相談……それも……
そこでぶあっはっは! と多田山くんがまたもや大口を開けて笑い出した。

ああ! 嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。
宇城 朔哉
宇城 朔哉
そんじゃさ、具体的に俺どうすればいいわけよ? その、顔で推す、ってどういうこと? 前原
そこで奏はちょっと前かがみになって宇城くんに顔を近づけた。

内緒話をする体裁をとってはいるけど、教室の真ん中で話すたったの六人だ。ここにいる全員に聞こえていることは周知の事実。
前原 奏
前原 奏
今のままじゃ宝の持ちぐされのイケメンをアピールするんだよ。かっこいい写真ばっかりを撮りまくって、狙ってる子の携帯に送ってあげるの。もう一発でノックアウトするような写真をさ!
吉住 凜子
吉住 凜子
今はね、宇城。自撮りする時のための自撮り棒ってものまであるんだよ
宇城 朔哉
宇城 朔哉
なんだそれは? 吉住
吉住 凜子
吉住 凜子
見たことない? 携帯をその棒の先にセットして手元のボタンを押すの。そうするとある程度離れた場所から自撮りができるし、アングルにバリエーションも出るんだよ
宇城 朔哉
宇城 朔哉
ほー、なるほどな。ああ、なんか女子がやってるの見たことある
前原 奏
前原 奏
でしょ? あとね、セルフで撮るやり方もきっちり覚えれば、両手を離して自由なポーズもできちゃうよ
宇城 朔哉
宇城 朔哉
へえ
前原 奏
前原 奏
人気の若手タレントの写真集なみにかっこよくできると思うよ、宇城なら
宇城 朔哉
宇城 朔哉
ふうん、そうかな
前原 奏
前原 奏
そうだ! タレントの写真集を参考に使えばいいんじゃない? どういうアングルがかっこいいかよくわかると思うよ?
宇城 朔哉
宇城 朔哉
ほー、なるほどねー
奏の言葉に納得の相槌を返しながら、宇城くんの顔がゆっくりとわたしのほうを向く。

もう奏も凜子も面白がって宇城くんに何を教えているのよ。宇城くんで遊ぶのをやめてほしい。

宇城くんが、わたしの瞳を覗き込むように見つめてくる。まさに、ヘビに睨まれたカエルの心境だ。
宇城 朔哉
宇城 朔哉
ところで波菜。お前、タレントで誰が好き?
島本 波菜
島本 波菜
え? あのー、えーと、そのう、特には……
わたしは下をむいて、ごにょごにょと呟いた。
宇城 朔哉
宇城 朔哉
は? 聞こえねえよ。誰だと?
島本 波菜
島本 波菜
……竹河涼……か、な。しいて言えば
とりたてて好きなタレントはいないけど、わたしに振られた話題を長引かせたくなくて、場当たり的に今人気急上昇中の若手俳優のうちのひとりの名前を挙げた。

宇城くんとわたしのやりとりに、まさにゲラゲラって形容がふさわしい大声で、他の四人が一斉に笑い始めた。

ああ……神さま、仏さま、アーメンです! わたしを宇城くんからお救いください。
宇城 朔哉
宇城 朔哉
波菜がそいつのことがタイプなら、俺負けないようにめっちゃがんばるわ!
自分の首筋から頬にかけて、ものすごい勢いで血液が駆け上がるのがわかる。わたし、また真っ赤になっている。他の人じゃここまでできないほど赤面しているはず。これはもう一種の特技だよ。
宇城 朔哉
宇城 朔哉
やっぱ。波菜、むちゃくちゃかわいい! もうおもちゃみたい! そうやって俺が言ったことで、スイッチ押したみたいに一瞬で真っ赤になるのが、もうかわいくってかわいくって!
島本 波菜
島本 波菜
違うよー
わたしは椅子に座ったまま頭を抱え込んだ。

やっぱりまた遊ばれてるよー。この赤くなるのだけは自分でもどうにもならないんだってば。
前原 奏
前原 奏
うるさいよっ! 宇城! このドS変態っ。波菜の赤面症についてあれこれからかうやつはあたしが許さない、って何度も注意してるじゃんっ
奏が宇城くんの頭を平手で豪快にスパコーン! と叩く音が聞こえた。

さっきまで一緒に笑いころげていた奏が、わたしの赤面症のことを宇城くんが指摘したとたん、豹変して怒りだした。

その後、わたしの肩よりちょっと長いおかっぱ頭を優しい手つきでなでる。
宇城 朔哉
宇城 朔哉
だって波菜、俺がなんか言った時しかここまで真っ赤になることないぜ? 意識されてるみたいで超気分いいし。もう何よりかわいくて! おもちゃみたいで!
……なんですか、そのおもちゃ、って!

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