夏も本番! 梅雨明け宣言もまだなのにすでに気温は圧倒的な夏! テストも終わり、終業式を終えれば高校二年の夏休みが始まる。
男女六人で教室の机や椅子に腰かけて話す放課後、奏がそんな失礼千万なことを宇城朔哉くんに対して言い放つ(ちなみに幼なじみの奏は無事わたしと同じ日向坂高校に合格、もといわたしが無事に奏と同じ日向坂高校に合格)。
二年三組の教室は西日が大量に入り、遅い時間のほうが明るいくらいだ。
ぎゃはは、と豪快に笑う多田山くんのほうがよっぽど失礼かも。ちなみに多田山くん、多田山結人くんは宇城くんの親友だ。
この発言は同じく宇城くんの親友の森本駿平くん。
三人は男子サッカー部の要で超仲良し。もうじき部長交代の時期で、多田山くんが部長で森本くんが副部長になるらしい。
エースは宇城くんなのに、もろもろの理由で部長・副部長には適していないと判断されたとの噂だ。
凜子の物言いも奏に負けず劣らず厳しい。
前原奏と吉住凜子、これが二年三組で仲良くしているわたしの親友二人だ。
幼稚園に入る前からのつき合いの奏は、わたしのことはなんでも知っていると言っていい。わたしはしっかり者の奏に今も頼りっきりという不甲斐なさ。
と、ここで奏が、茶色く染めた長い髪を後ろに払いながらダメ押しをする。
気分を害したそぶりもなく、宇城くん本人はつむじのあたりを人差し指で掻いている。
そこでぶあっはっは! と多田山くんがまたもや大口を開けて笑い出した。
ああ! 嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。
そこで奏はちょっと前かがみになって宇城くんに顔を近づけた。
内緒話をする体裁をとってはいるけど、教室の真ん中で話すたったの六人だ。ここにいる全員に聞こえていることは周知の事実。
奏の言葉に納得の相槌を返しながら、宇城くんの顔がゆっくりとわたしのほうを向く。
もう奏も凜子も面白がって宇城くんに何を教えているのよ。宇城くんで遊ぶのをやめてほしい。
宇城くんが、わたしの瞳を覗き込むように見つめてくる。まさに、ヘビに睨まれたカエルの心境だ。
わたしは下をむいて、ごにょごにょと呟いた。
とりたてて好きなタレントはいないけど、わたしに振られた話題を長引かせたくなくて、場当たり的に今人気急上昇中の若手俳優のうちのひとりの名前を挙げた。
宇城くんとわたしのやりとりに、まさにゲラゲラって形容がふさわしい大声で、他の四人が一斉に笑い始めた。
ああ……神さま、仏さま、アーメンです! わたしを宇城くんからお救いください。
自分の首筋から頬にかけて、ものすごい勢いで血液が駆け上がるのがわかる。わたし、また真っ赤になっている。他の人じゃここまでできないほど赤面しているはず。これはもう一種の特技だよ。
わたしは椅子に座ったまま頭を抱え込んだ。
やっぱりまた遊ばれてるよー。この赤くなるのだけは自分でもどうにもならないんだってば。
奏が宇城くんの頭を平手で豪快にスパコーン! と叩く音が聞こえた。
さっきまで一緒に笑いころげていた奏が、わたしの赤面症のことを宇城くんが指摘したとたん、豹変して怒りだした。
その後、わたしの肩よりちょっと長いおかっぱ頭を優しい手つきでなでる。
……なんですか、そのおもちゃ、って!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。