嫌な思い出があって苦手なんだよね。その“おもちゃみたいでかわいい”という表現方法は。
多田山くんが隣でため息をついている。
高校に入ってからほとんど治りかけていた赤面症。宇城くんのせいで完全復活している。
……宇城くんに対してだけは、実は特別なんだ。
激怒りの奏以外はみんなまだゲラゲラ笑っている。止まない笑いの渦の中、そのままがっくりと首をたれた。
からかわれてもかわし方のスキルも持たない島本波菜、高校二年の十六歳。不覚です。
二日後、わたしの携帯は奏に没収されて、メッセージアプリ画面を確認された。
完全に油断していたのだ。放課後の教室で、奏と凜子のバスケ部が終わるのを待っていた。
二人が入ってきたことにちっとも気づかず、そのまま後ろから携帯をひょいっと取り上げられてしまった。
画面に集中し過ぎていたみたい。取り上げられてから抵抗しても遅い。
奏と凜子は感嘆半分、遊び半分で、わたしの携帯を両手でつかみ、目の前十センチまで持ってきて凝視している。
茶髪ロングの奏と黒髪ロングの凜子が同時に画面を覗き込むと、視界が髪の毛カーテンで仕切られるようだ。
わたしの携帯のメッセージアプリ画面には、ゆうに三十を超える宇城くんの自撮り画像が送られてきていた。それがもう……恥ずかしげもなくというかなんというか、完全にモデルのノリなのだ。
凜子が言ったように、たぶん竹河涼の写真集の構図をそっくりそのまままねしたんだろう。
最初の画像は裸の上半身に、濡れた前髪の間からこっちを睨むように見据えている構図。顎や胸元に水滴がいっぱいついていて悩殺されそうなほどなまめかしい。
その次のは、裸にそのまま赤いパーカーを羽織り、フードを被って両手をポケットに突っ込みそっぽを向いている。
目を閉じて青空を仰いでいる画像は、のど仏が強調されていていかにも男子だ。
なぜか正装もあった。白いシャツに銀の蝶ネクタイ、真っ黒のタキシードといういでたちで煉瓦の壁によりかかり、気負いのない表情でこっちを眺めている。
高校生がいきなりこんな……素人目にも上質なタキシードを持っているところからして、やっぱり宇城くんは相当のお坊ちゃまだ。
ふだんじゃ絶対にしない格好やポーズがこの後も延々と三十以上も続くのだ。
こんなものを正視に耐えるレベル、いやそれ以上の画像にできちゃうあたり、彼は芸能人とさして変わりがない。
ただ芸能人でもないのにこれを平気でやってのけ、しかも女子の携帯に送りつけるなんてことを……。
数秒後、最初のテンションはどこへやら、奏に続き凜子も声をひそめ、充分に……ドン引き、しているじゃなーい! 自分たちで勧めたくせに。
泣けると言っているくせに、凜子はきゃはは、と声を出して笑いころげている。
うっ! 人の一番気にしていることを! だいぶよくなったんだよ、これでも。
奏も奏で、わたしがそれを他人、とくに男子から指摘されると鬼の形相で怒るのに、自分では言うんだから。
わたしは奏から乱暴に携帯を奪い返し、もう取られないように胸元に抱え込んだ。二人から顔をそらしてぷいっと横を向く。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。