第7話

2.自由の国から来た王子-3
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2018/09/14 03:23
窓から吹き込む七月の風が、レースのカーテンを揺らしていく。

今日は早くに終わることがわかっていたバスケ部と違い、宇城くんの所属するサッカー部員たちは、まだ校庭の砂ぼこりの中を走りまわっている。

わたしの待っている教室に奏と凜子がきてくれるまでの数時間、こっそりカーテンの陰にかくれるようにしながら、サッカーコートを走るひとりの男の子を目で追っていた。

身長一七五センチは、高校二年としては高いほうだと思う。でもサッカー部はたまたま長身が多いから、体形としては完全に埋もれる。なのにわたしの目はその人サーチ能力にとっても優れている。

同じユニフォームを着こんだ選手がどんなに団子状態でボールを追っていても、恐ろしいほど的確にその人にフォーカスを絞ることができてしまう。

誰にも、それこそ一番仲がいい奏にも凜子にも、話したことはないんだけどね。
今、宇城くんとか多田山くんとか森本くんとか、クラスの真ん中でのびのび高校生活を送る男子と仲良くできるのは、幼なじみの奏がいつもわたしと一緒にいてくれるからだ。

奏は美人で明るくて竹を割ったような性格で、わたしの憧れそのままのような女の子だ。幼稚園から高校の今に至るまで、ずっとみんなの中心的な位置にいるせいで、自然とその手の男子が寄ってくる。

そうじゃなきゃ、わたしのように地味で目立たなくて、おまけに男子とまともに口もきけないような子が、放課後に男女のグループで群れる、なんて青春っぽいことはできない。

ただし、しゃべっているのは奏や凜子が多い。

奏や凜子の前でなら普通に話せるものも、男子がその輪に入るととたんに口が重くなってしまう。

それでも最近はかなり慣れてきた。自分でも目をみはる進歩だと思う。

だけどそれは、最初の頃、多田山くんや森本くんがさりげなくわたしを気遣って話を振ってくれたからだ。

このグループの男子は基本的に優しい。面倒くさい女子を面倒くさいとわかる扱いをしないでくれた。

おかげで今はとっても楽しい。学校にくるのが楽しみで仕方ない。

……実は他の理由も大きいんだけどね。
小さい頃からの性格形成に男子が絡んでいるのは間違いない。

面倒だっただろうに、わたしをからかう男子をいちいち蹴散らしてくれたのが奏と……小学校の五年まではもうひとりいた幼なじみの男子。

五年の時にその子と気まずくなってからは、奏ひとりがわたしを守ってくれていた。

もっとも、男子も高校に入ったとたんぐっと大人びてきて、今ではわたしが赤くなって口ごもることがあってもスルーしてくれる(宇城くん除く)。

だからこの日向坂高校も二年目になった今、わたしは少しずつ男子に対して免疫がついてきた。

きっと努力もある。わたしは高校に入ったら、奏の背中にばかりいるのはやめようと決めていたから。

そう自信を持たせてくれた、自分の殻をひとつ破ることができた出来事が、あの、高校受験のための模擬テストの時にあった宇城くんとのアクシデントだ。

その後、そのカンニング疑惑にまつわる悲しい事実も知ってしまった。

だけど自分に行動力が皆無なわけじゃないんだと、その時についた自信は揺らがなかった。それは果てしなく小さいものなのに、砕けないほど硬くてとても輝いている。自分の中のダイヤモンドだと言ったら言い過ぎだろうか。

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