第12話

音駒高校with黒尾鉄朗
3,972
2019/04/21 16:21
水樹伊織
すいませーん!ボール入りました!
コロコロと隣のバレー部のコートにバスケットボールが侵入していく。
黒尾鉄朗
おっと
背の高い大きな先輩の足元にあたって止まったボールを拾い上げて渡してくれた。
黒尾鉄朗
どーぞ
水樹伊織
ありがとうございます!
ボールを受け取ってコートに戻る。ちらっと後ろを振り向くと、その先輩はサーブを打っていた。
「あの人かっこいーね」
隣でチームメイトが呟いて、たしかにかっこいいなと思った。
練習終わりのシューティングの時間。隣ではバレー部がまだ練習をしていた。こっちのコートに残っているのはせいぜい2、3人で真面目に打ってる人なんてほとんどいない。
黒尾鉄朗
あ、やべ
先輩の声とともにバレーボールは私の目の前にまっすぐと飛んできた。かろうじてバスケットボールで遮るも、その反動でバスケットボールが額に当たった。
水樹伊織
いだっ
ボールを拾って戻ってきた先輩
黒尾鉄朗
ごめん、大丈夫?
水樹伊織
あ、全然平気です
黒尾鉄朗
ちょっと見せて
そう言って先輩は私の手を除けてぐいっと顔を近づけてきた。
黒尾鉄朗
…なんで、赤くなってるんすか
水樹伊織
…すいません
顔が赤くなっていくのが自分でもわかる
黒尾鉄朗
でも、おでこ腫れてるちょっと待ってて
そう言って走ってどこかに行ってしまった。本当に大したことないんだけどなぁ
黒尾鉄朗
これ
そう言って渡されたのは濡れたタオル
水樹伊織
え?
黒尾鉄朗
冷やしたほうがいいよ
水樹伊織
いや、でも
黒尾鉄朗
あ、それ使ってないやつだから大丈夫心配しないで
別にそういうわけではなかったんだけど、本気で心配してくれてるみたいなので、水をさすのはやめておいた
水樹伊織
ははっ、ありがとうございます
黒尾鉄朗
…おう
そう言って先輩はバレーの練習に戻っていった。その日から私はたまに隣で練習するバレー部の先輩に心を惹かれていった。
2日後、タオルを洗って返そうと思ったけど、先輩の名前もクラスも知らないことを思い出して、同じクラスのバレー部に聞くことにした。
水樹伊織
孤爪研磨くん?
孤爪研磨
(びくっ)
水樹伊織
あ、あの、えーっと
実は、超絶人見知りなのだ。自分から話しかけるなんて、ほぼ無理。
孤爪研磨
なに
水樹伊織
この前、タオル貸してくれた先輩のクラスって…
孤爪研磨
ああ、3年5組
水樹伊織
あ、ありがとう
お礼を言って3年生の教室に向かう。
知らない人が多すぎる。どうしよう。無理。
夜久衛輔
あれ、それ黒尾のタオル?
声をかけられて顔を上げると男の人がいた。だれ?
夜久衛輔
あ、俺は夜久衛輔
そう名乗った彼は屈託のない顔で笑った。
夜久衛輔
黒尾だろ?今呼んでくるから待ってな
そう言って教室の扉に手をかけて声を張り上げた。
夜久衛輔
黒尾ー!お前に用事だってー
黒尾鉄朗
え、なになに告白?
夜久衛輔
なわけねーだろ
黒尾鉄朗
やっくんひどい!…あ、この前の
水樹伊織
これ、ありがとうございました
黒尾鉄朗
いやいや、あの後大丈夫だった?
水樹伊織
はい、おかげさまで
黒尾鉄朗
良かった
水樹伊織
あ、じゃあこれで
黒尾鉄朗
待って
???
水樹伊織
なんですか?
黒尾鉄朗
名前なんていうの
水樹伊織
水樹です
黒尾鉄朗
みずき
水樹伊織
はい?
黒尾鉄朗
俺は黒尾鉄朗
水樹伊織
はあ、では
黒尾先輩かぁ。
ちょっと上機嫌でクラスに戻ると、孤爪研磨くんと目があった…気がした。

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