第10話

青葉城西with及川徹
3,428
2019/04/21 09:03
屋上の扉を開けると、なかに及川さんがいた。こんなのバレたらほんとにまたいじめられる。
水樹伊織
私に何の用ですか
及川徹
あ、きたきた、みずきいおりさん?
水樹伊織
なんですか
及川徹
まあまあ座って話そうよ
こっちの気持ちなんて考えない自分勝手な人。
及川徹
芸能人だったんだね
え、バレてる?
水樹伊織
なんでそれを…
及川徹
ほら
そう言って見せてきたのはこの前撮影で撮った特集ページだった。
水樹伊織
あ…
水樹伊織
誰にも言わないでください。お願いしますほんとに
及川徹
一つ条件がある
水樹伊織
な、なんですか
及川徹
スタジオ一回で良いから連れてってほしい
水樹伊織
へ?
水樹伊織
そんなことで良いんですか?
及川徹
うん、見たい。君がどんな顔するのか
水樹伊織
…、な、なにそれ…
及川徹
気になる
いつかの私と同じセリフ。
水樹伊織
1回だけですよ、いつ練習休みなんですか
及川徹
ほんと?!やったー!明後日!明後日休みだよ!
水樹伊織
えーっと、…明後日は雑誌の表紙撮影だから…
水樹伊織
スタジオ集合ですからね。くれぐれも私の教室来ないでくださいね。あくまで他人のふりですよ。
及川徹
わかったってば!じゃあ明後日ね♪
上機嫌で屋上を後にした及川徹。変な人。
2日後、授業終わりにカバンを持って教室を出る。3年生の授業はまだもう1時間あるから先にスタジオに向かう。関係者パスは及川さんのカバンに入れておいた。
スタジオについて、メガネを取る。スタイリストさんと話しながら今日の衣装、メイク、ヘアスタイルを決めていく
キラキラ女子の出来上がり
「みずきいおりさん入りまーす」
水樹伊織
お願いします!
全力の笑顔で挨拶をする。
「はーい、じゃあとりあえず目線こっちで笑顔くださーい」
女優としてもモデルとしても、自分の顔を売りに出していることには変わらない。学校の自分とは正反対を演じることがここでは求められる
どっちが本物の自分かなんてわかってる。もともとキラキラしてるものが大好きで、華やかな世界に憧れてこの世界に入ったのだから。
及川徹
失礼します…うわ
最初は及川さんが入ってきたことに気づかなかった。
カメラに向かって今のカットを確認しているとマネージャーが近づいてきて耳打ちをした
「いおりの連れの人来てるけど」
水樹伊織
え?
スタジオの入り口を見ると、及川さんが唖然としながら立っていた。
水樹伊織
及川さん迷わずに来れました?
ここは学校じゃないから、ついいつもの調子で話しかけてしまった。普段はあんなに無愛想なのに
及川徹
え、う、うん。なんかキャラ違うね?
水樹伊織
そうですね
及川徹
こっちが本物?
水樹伊織
さあ、どうでしょう
「いおりちゃーん!次のカット撮るよー!」
水樹伊織
はい!今行きます
及川徹
頑張って
水樹伊織
はい
またカメラの前に立って、くるくると表情を回す。20分くらいで撮影は終わった。
「お疲れ様でしたー」
水樹伊織
おつかれさまです!
及川徹
ほんとになんか別人みたい…
水樹伊織
別人ですよ
ボソッとつぶやいて横を通り過ぎる
着替えて、メガネをしようとしたら、プロデューサーが入ってきた。

「ねえ、あれいおりちゃんの彼氏?めちゃくちゃかっこいいね」
水樹伊織
違いますよ…ただの先輩です
「でもなぁ撮りたいんだよね、2人のショット。手伝ってくれるかい?」
水樹伊織
え、いや、無理ですよそんなの第1あの人がいいって言うか…
「それなら心配しないで、許可とったから。」
及川徹
似合いますかー?
遠くで及川徹の声がした。ノリノリじゃないか。
水樹伊織
お金…
「はいはい、ちゃんと出しますよー」
それなら、しょうがない。もう一度衣装を見直して、メイクをする。さっきよりも幼く、可愛い系で確実に及川さんに合わせてメイクされてる。
「みずきいおり入りまーす」
水樹伊織
お願いしまーす!
またさっきと同じように挨拶をしてはいる。撮影は嫌いじゃないけど、なんでこの人と映らなきゃいけないんだろう。
及川徹
伊織ちゃん♪
水樹伊織
お願いします
営業スマイルを貼り付けて対応する。
「はいはいいくよー!もっとくっついてー!」
なんて無茶ぶり
ぐいっと肩を引かれて、驚いてみると慣れたように肩を回してカメラに向かって笑顔を向けている。素人のくせに、負けてられない。
及川さんのネクタイを引いて顔を近づける。カメラに目線を寄せながらもメイクに合わない大人っぽい表情を意識する。
「いいよいいよー!じゃあ次お姫様抱っこしてみようか!」
水樹伊織
え、いや、それはちょっと
及川徹
よゆー
そう言いながらヒョイっと持ち上げられて撮影中なのに死ぬほど嫌な顔をしてしまった。
「いおりちゃーん表情かたい」
水樹伊織
あ!すいません!
慌てて表情を作る
「はいおっけーい!」
やっと及川徹から解放される。
及川徹
楽しかったなぁ
水樹伊織
及川さんに向いてそうですもんこういうの
及川徹
学校でもそのくらい明るくいけばいいのに
水樹伊織
そんなの反感買うだけですから。
及川徹
そんなことないと思うけどなぁ
水樹伊織
及川さんみたいな人にはわからないですよ。それに、学校での私があるからここでのこの表情が作れるんです
及川徹
ふーん?
そういって、及川徹はしっかりと芸能プロダクションのスカウトを受けて帰っていった。

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