【乃音過去】
高校の入学式。
それは私にとって特別なものだった。
キラキラとした青春。
それを夢見て私は期待をいっぱいに抱いて校門をくぐった。
憧れの高校生活は思ってた通り…いやそれ以上にキラキラしていた。
友達とはしゃいで帰る帰り道も、学校のイベントだって些細なことでも楽しかった。
そんなある日
友達の恋愛相談に乗っている時、私にもいつか好きな人ができるかな?なんて考えていた。
好きな人が居たことなんて無かったから私にはどんなものなのか分からない。
だけど、きっと楽しいに違いない。
私はそんな期待も抱いてた。
そう思った日の帰り道、私は放課後の体育館に忘れ物を取りに行っていた。
体育の時に忘れたタオルを取りに行ったのだ。
その頃にはもう既に部活動は始まっていた。
その日はバスケ部が使用していて、熱気溢れる体育館をボーっと見つめていた。
はっ!として邪魔にならないように私はステージ付近に置いてあったタオルを取り、帰ろうとした。
「危ないっ!」
その時、そんな声が私に向けられて発せられた。前方から凄い速さでボールが飛んできていた。
思わず目をギュッと瞑る。
だけどなかなか痛みは来ない。
不思議に思って恐る恐る目を開く。
すると目の前には私より遥かに高い身長の
男の子がそのボールを止めてくれていた。
「あぶねーぞ。ちゃんとパスを出せ」
その男の子は皆にそう呼びかけて
「大丈夫か?」
私にそう声をかけてくれた。
「は、はい!」
「そうか良かった。お前も気をつけろよ」
男の子はそう言い、笑って練習に戻って行った。
その時、何故か不覚にも彼の笑顔に胸が高鳴ったのだ。
この感情がわからず、その日は頭を悩ませながら帰路についた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!