環はその言葉を聞いて微笑んだ。
俺、いい事やった!みたいな顔。
実際にはいい事なんだろうけど素直にありがとうって言っていいんだろうか。
また、一織に怒られるんじゃ……
環が、俺を宥めるように優しく言った。
少しだけ安心感を覚える。
環はいつだって俺を甘やかしてくれるような気がする。
王様プリンを環に渡す。
キラキラした瞳で王様プリンを眺める環。
幼く見えるけど、アイドルとしての四葉環は全然違う。
17歳という若さにして発言も大胆だし、なによりガタイもいい。
大人しくしてればいいんだろうけど話してみれば、幼い子みたいだしギャップ萌え?とか感じる人がいるんだろうか。
王様プリンを口に頬張りながら喋る。
1限目は、数学。
確か宿題があったはず。
まぁ環は宿題やってくると思うけど……一織がいるから。
一応確認してみる。
ノートに書いてある文字は環の字じゃない。
すごく綺麗に書いてある。
再びノートに目をやると濡れた跡みたいなのがあった。
プリンの欠片と共に。
思わず口が滑ったと言う顔。
もう遅い、俺に聞かれてしまったのだから。
壮五さんって、意外と怒らせたら怖いのか……
いつもテレビで見る顔は誰もが優しいと感じる笑顔を見せてくれる。
でもそんな綺麗な顔をして野蛮なことをするとは。
この2人は大丈夫なんだろうか。
壮五さんと環はこのままじゃ、潰れてしまわないだろうか。
.
学校も終わり、会う時間になった。
環と共にカフェに向かう。
それほど遠くはないカフェだがいつもより遠く感じた。
環と話していればそんな気がする。
可愛らしい木の家、こじんまりとしたカフェは夕方だからか人が少ない。
店の中には目立つ人物が1人。
帽子にマスク、隠していてもわかるオーラ。
そう、あの人が逢坂壮五さん。
すらりとしたスタイル、無駄のない動作。
丁寧な言葉遣い。
しなやかな指が俺に握手を求めてくる。
緊張しながらも口を開いた。
握手を交わす。
まだ名乗っているだけなのに顔が真っ赤だ。
胸が張り裂けそうなほどドキドキしている。
真っ直ぐな瞳をした、紫色の光。
俺にはとても眩しかったけれど壮五さんはいつも笑っていた。