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まだ父親と呼ぶには壁がありすぎる。
俺はこの人をちゃんと信用していないのかもしれない。
壮五さんと環は口を開けてパクパクさせたまま動かない。
壮五さんは本当の事を知らない。
俺がこの人とは血が繋がっていない事も。
環には話して欲しくはない、ちゃんといつかこの人に話したい。
環の服の裾を掴んだ。
小さく呟いた。
環は戸惑っているのか真顔で俺を眺め続けた。
優しく頭を撫で、まるで子供と接する大人みたい。
その頃、小鳥遊さんと壮五さんは2人で話をしていたから俺達の話も聞こえてはいなかった。
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その後は4人で環の宿題を見たり、他愛のない話をして時間は過ぎていった。
そろそろ帰らなければいけない時間という事で今日は解散することになった。
優しく俺の手を握り名前を呼んできた。
思わずドキリとして少し頬が火照るような気がした。
環と小鳥遊さんの目線が痛いほど伝わってくるけど今は二人の世界に入っている。
邪魔などされたくない。
ちゃんと壮五さんのことを知ることは出来なかったけど唯一分かるのは真面目で優しくてお人好しなんだろうなってこと。
俺を握る手は冷たくて温かくなどなかったけれど触れ合った部分は熱く、温もりが伝わってきたような気がする。
俺と壮五さんを引き剥がし、小鳥遊さんは2人を帰した。
息子を取られたくないという気持ちなんだろうか、笑みが零れた。
2人が去り、玄関のドアを閉めた小鳥遊さんは優しく微笑んでいた。
そして優しく俺を抱きしめてくれる。
感動するシーンかと思いきや、きっと小鳥遊さんは俺にお父さんと呼んで欲しかっただけなのだろう。
抱きしめた腕を離し、俺の肩を押した。
期待に満ち溢れた顔をして俺が呼ぶのを待っている。