第4話
少しの勇気。
その日、梅雨でもないのに大雨が降っていた。
突然の雨に母は俺に兄を迎えに行って欲しいと頼んできた。
雨脚はとても強く、歩くのも大変。
履いていたスニーカーはぐちょぐちょだ。
バスに乗り、30分ほど座っていると放送で聞こえてくる。
ボタンを押す。
次止まります、という言葉が聞こえ降りる準備をする。
バスから降りて、少し歩く。
大学はすぐ側なんだけど今は少し寄り道をしたくなった。
大学の方向とは反対の道に足を踏み入れる。
紫陽花が雨に負けず咲き誇っている。
青や紫、ピンクなど様々な色が目に付く。
少しだけ優しい気持ちになりながらも道を進んでいると電話が震えた。
その時は、ムカついた。
思春期というやつなんだろう。
兄は携帯を持たない、俺は持っているんだけど兄は持ちたくないらしい。
そのせいか連絡をしたくてもできない。
今日だって母が兄を気遣っての事。
TRIGGERの歌を自然に口ずさんでいた。
苛立った気持ちが静まるような気がしたから。
雨の音できっと誰も聞いていないだろう、そう思いながら夢中になっていると声と共にズシャアッと何かが倒れる音がした。
一目惚れしたかのように、その人から目を離せなかった。
どうやら紫陽花の草で転けてしまったよう。
思わず手を差し伸べる。
笑みが溢れる。
その様子を見た青年は、俺の手を取り立ち上がる。
思ったよりも背が高くてびっくりする。
顔立ちは綺麗に整っていて瞳が紫陽花みたいだ。
その後、少しだけ話して帰ることになった。
雨も酷くて気遣ってくれたみたい。
でも俺は帰るのが遅かったんだ。
崩れかけた家、黒い煙が立ち上っている。
火は勢いを止まることを知らないように燃えている。
消防士が火を消し、警察や救急隊が来ていた。
雨はすっかり止み、晴れ間の出るこの天気。
嫌になりそうな程しっかり記憶に残っている。
それからは大変だった。
俺以外の家族は全員連絡が取れず遺体が発見された。
全員の死亡が確認されると俺は親戚の家に住むことになった。
高校生であってもまだ子供。
その事に理解するまで相当な時間がかかった。
話し終えた時には環が、傷ついた顔をしていた。