第16話

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2022/04/10 16:54




一日が終わり、放課後。




とうとう今日、私はあなたさんのことを知る機会を得た。




得たって言うか、湊崎さんが提供してくれたんやけど。




今日はなんだかあなたさんも素直だったし、他の授業の先生も珍しく起きてましたよと報告してくれて。




今は応接室であなたさんと二人きり。湊崎さんが来るのを待ってる。




相変わらずあなたさんは素っ気ないし、今も目を合わせることもせずにずっと中庭を眺めてる。




そして私はそんなあなたさんを眺めて、さっきから何度か怒られてる。




(なまえ)
あなた
...あのさ。
南
ん?
(なまえ)
あなた
なんなの?
南
なにが?
(なまえ)
あなた
私の顔に何かついてるわけ?人の顔ジロジロ見て何が面白いのさ
南
別に〜?笑
(なまえ)
あなた
きっしょ。なんなのまじで
南
それより。今日やけに素直やん、なんかあった?
(なまえ)
あなた
...別に。
南
ふ〜ん...まぁ、偉いやん?朝から学校来るなんて。
(なまえ)
あなた
...怒らないんだ、遅刻したのに。
南
そりゃ明日朝一に電話して叩き起したろ思ってたけど。
南
ちゃんと制服着てピアスも一個に抑えて来たし。十分やない?
(なまえ)
あなた
......あっそ
南
あ、今照れた?ちょっと照れたやろ
(なまえ)
あなた
んな訳。人の顔見てないで何聞くか考えときなよ
南
聞いたら何でも答えてくれるん?
(なまえ)
あなた
まぁ、それなりには。ちゃんと話すって約束したし。
南
......そんなんしたっけ?
(なまえ)
あなた
あんたとじゃない
南
じゃあ誰?
(なまえ)
あなた
言う意味ない.........ちょっと出てくる
南
え、何どこ行くん。帰るとかなしやで?
(なまえ)
あなた
紗夏さん来たの。迎え行くだけ
南
あ、そう......?!待って、それなら私も行かなあかんやん!




相変わらず無愛想な返事しか返ってはこないものの、今まででは考えられない会話のリズムが楽しくなってきて。




よくよく見たら普通にイケメンやし、綺麗な顔立ちしとるもんな、そりゃ平井さんも気になる訳やわ




髪もツヤツヤで肌も綺麗。長くて白い手指にすら目が奪われるほど。




まぁそのちょっと失礼な態度は変わらないけど、初めてこんなに長く話せたのも嬉しいから許しちゃって。




携帯を見て立ち上がったあなたさんの後ろを着いて正門へ向かうと、あの日見た高級車と同じ車からちょうど湊崎さんが降りてきて。




物凄く可愛らしい笑顔で私に一礼をすると、わざわざお土産のようなものを手渡してくれた。




本当は受け取ったらいけないんだけど...なんか、外国のお菓子だったし凄い高級そうだったから断るに断れなかった。




湊崎さんから受け取った菓子折りを持って、保護者にしては距離が近すぎるのでは?と思う程の距離感の二人を連れて、また応接室へ。




何から話せばいいのか悩んでいると、目の前の子が一言私の緊張を無視したような発言。




(なまえ)
あなた
...ほんとに聞きたいことだけにして。
南
え、あ、うん...
紗夏
紗夏
...じゃ、まずあなたの家の事から話しますか?
南
あ、そうして頂けるとありがたい、です...!
紗夏
紗夏
自分で話す?それとも紗夏話そっか?
(なまえ)
あなた
...自分の事だし、自分で話す。
(なまえ)
あなた
父親は二年前に死んだ。実家には祖父母と母親だけ。病院に入院中の姉さん一人。
(なまえ)
あなた
祖父母も母親もろくな人間じゃなくて、姉さんがおかしくなって入院。
(なまえ)
あなた
あそこにいたらやばいって叔母さんに連れ出されて紗夏さんの家に居候してる。
南
お、おぉ...端的で分かりやすくありがとう...
南
...その、ろくな人間じゃないって、どんな風に?
(なまえ)
あなた
...それ言わなきゃダメ?
南
できるだけ情報は多い方がいいから...
(なまえ)
あなた
...私に医者になることを強制してくる。思い通りにならないなら暴力で聞かせる人。
(なまえ)
あなた
姉さんはそれでおかしくなった。元から医者志望だったけど、成績が著しくなくて母親と祖父母に責められて今精神病んでる。
(なまえ)
あなた
祖父母は...まぁ暴力は振らないにしても、陰湿な嫌がらせが多かったイメージ。食事は捨てるわ私物は勝手に売るわでやりたい放題。
(なまえ)
あなた
...あんたは、ここの学費親が出してるとか言ってたけど。
(なまえ)
あなた
父親が私に残してくれた通帳から出してるから。あとナヨンさんも出してくれてる。
南
ま、待って...ちょっと、整理追いつかない......
(なまえ)
あなた
...とりあえず、親はクズ。クズから逃げてきただけ。
南
み、湊崎さん...これは、ほんとの話ですか?
紗夏
紗夏
めちゃくちゃほんとです。ナヨンさんがこの子の叔母にあたる人で、私も知り合いです。
南
...こっちには、いつから?
(なまえ)
あなた
丁度父さんが死んだ年。
南
てことは二年前...






...ていうかいくらなんでも深刻すぎひん?




そんな、毒親とか全然頭に無かった...そりゃこんな反抗的にもなるよな、そんなんやったら




ていうか...お姉さんそれ大丈夫なん?お姉さんそんなんやのにこっち来たらお姉さん一人にならん?






あまり安易に聞いていい話じゃなかったかも。なんて、聞いてから後悔して。




でも逆に、それを簡単に淡々と話すあなたさんに違和感を覚えもした。




何故実の父が亡くなったことをそこまで簡単に話せるのか。二年の間で気持ちが落ち着いたにしては落ち着き過ぎてる。




祖父母や母親の暴力だって普通だったらあってはならないはずのことなのに、それがまるで普通かのように話してる。




お姉さんが入院してることも、なんだかそこまで興味が無いような口振りで。




自分から聞きたいと言って頼み込んだくせに、どうもあなたさんの感情の無さにもやもやしている私がいた。












新任からこんなに難しい事情を抱えた生徒の担当とは...これから一年、私はこの子と上手く接していけるのか不安だった。





































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