一日が終わり、放課後。
とうとう今日、私はあなたさんのことを知る機会を得た。
得たって言うか、湊崎さんが提供してくれたんやけど。
今日はなんだかあなたさんも素直だったし、他の授業の先生も珍しく起きてましたよと報告してくれて。
今は応接室であなたさんと二人きり。湊崎さんが来るのを待ってる。
相変わらずあなたさんは素っ気ないし、今も目を合わせることもせずにずっと中庭を眺めてる。
そして私はそんなあなたさんを眺めて、さっきから何度か怒られてる。
相変わらず無愛想な返事しか返ってはこないものの、今まででは考えられない会話のリズムが楽しくなってきて。
よくよく見たら普通にイケメンやし、綺麗な顔立ちしとるもんな、そりゃ平井さんも気になる訳やわ
髪もツヤツヤで肌も綺麗。長くて白い手指にすら目が奪われるほど。
まぁそのちょっと失礼な態度は変わらないけど、初めてこんなに長く話せたのも嬉しいから許しちゃって。
携帯を見て立ち上がったあなたさんの後ろを着いて正門へ向かうと、あの日見た高級車と同じ車からちょうど湊崎さんが降りてきて。
物凄く可愛らしい笑顔で私に一礼をすると、わざわざお土産のようなものを手渡してくれた。
本当は受け取ったらいけないんだけど...なんか、外国のお菓子だったし凄い高級そうだったから断るに断れなかった。
湊崎さんから受け取った菓子折りを持って、保護者にしては距離が近すぎるのでは?と思う程の距離感の二人を連れて、また応接室へ。
何から話せばいいのか悩んでいると、目の前の子が一言私の緊張を無視したような発言。
...ていうかいくらなんでも深刻すぎひん?
そんな、毒親とか全然頭に無かった...そりゃこんな反抗的にもなるよな、そんなんやったら
ていうか...お姉さんそれ大丈夫なん?お姉さんそんなんやのにこっち来たらお姉さん一人にならん?
あまり安易に聞いていい話じゃなかったかも。なんて、聞いてから後悔して。
でも逆に、それを簡単に淡々と話すあなたさんに違和感を覚えもした。
何故実の父が亡くなったことをそこまで簡単に話せるのか。二年の間で気持ちが落ち着いたにしては落ち着き過ぎてる。
祖父母や母親の暴力だって普通だったらあってはならないはずのことなのに、それがまるで普通かのように話してる。
お姉さんが入院してることも、なんだかそこまで興味が無いような口振りで。
自分から聞きたいと言って頼み込んだくせに、どうもあなたさんの感情の無さにもやもやしている私がいた。
新任からこんなに難しい事情を抱えた生徒の担当とは...これから一年、私はこの子と上手く接していけるのか不安だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。