その後小走りして、私たちは出発間際のバスに無事乗り込んだ。
アラタは大きなあくびをしてから、
つり革にもたれるようにして、目を閉じた。
最近男らしくなったとはいえ、寝顔にはどこか幼さが残っていてホッとする。
アラタは雑誌の読者モデル……、いわゆる読モになった。
高校入学前の春休みに原宿で声をかけられて、
ファッション雑誌『XXX』のストリートスナップに載ったのがはじまりだった。
読者からカッコかわいいと反響があったらしく(主に女子!)
それ以降も、ちょくちょく声がかかっているらしい。
……って、あくまでお母さんから聞いた話だけど。
アラタはアラタのままでいいのに。
オシャレしすぎると別人みたいで、正直うれしくはなかった。
アラタはこれまで、決してモテるほうじゃなかったのに、
読モになってからというもの、ファッションも髪型もどんどん変わって、芸能人特有のオーラまで出始めたんだ。
すると、その輝きに引き寄せられるように、アラタは急にモテだした。
学校でもよく女子と話すようになったし、ちょくちょく告白されてるみたい。
お母さんから聞いた話では、アラタの机の棚にラブレターがたくさん入ったカゴがあるらしい。
アラタの優しくて几帳面なところが、今は腹立たしい。
バスに乗っていても、さっきからチラチラと女子の視線を感じる。
前の方に座っている二人組の子たちも、こっちを見てひそひそ話しているけど、
アラタが読モになった途端、これなんだから。
そんなに読モって特別なわけ?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。