かれこれ三十分近く待っていたけど、
いっこうにアラタが帰ってくる気配はない。
すっかり日は暮れて、空を見上げれば星がきらめいている。
私は重いため息をついて立ち上がると、
三軒先の自分の家に向かって歩きだした。
そのとき、
後ろから聞こえた声にハッとして振り返ると、向こうの曲がり角からアラタが走ってくるのが見えた。
アラタの顔を見ただけで、胸が熱くなる。
……私、こんなにもアラタに会いたかったんだ。
周りが暗くてよかった。
私、きっと、泣きそうな顔してると思うから。
心配そうなアラタの声が心地よく胸に響く。
私、この声をずっと聞きたかったんだよ。
なるべくいつも通りの調子で振る舞ったけど、
心配そうなアラタの言葉に、胸がぎゅっとつかまれたみたいになって、うつむいてしまう。
今日はいろんなことがありすぎて、話したいことはたくさんあったはずなのに、
いざとなると何も出てこない。
私はわざと明るい話題を切り出した。
すると、アラタはぱっと嬉しそうな顔をして、
心から喜んでくれるアラタの笑顔に、私もうれしくなる。
すると、アラタは私を見て柔らかく微笑んだ。
前向きなアラタの笑顔に、胸がチクっと痛む。
いつだってアラタは、私のことも自分のことのように喜んでくれる。
中途半端なことが嫌いなアラタだから、
勉強も手を抜かずに、読モの仕事を一生懸命やってることくらいホントはわかってる。
でも、アラタが輝けば輝くほど、
どんどん私から離れていってしまうみたいで寂しいよ。
いつまでも一緒にいられないことはわかってる。
でも、もうちょっとだけ一緒にいたいよ。
……恋人なんていう、特別な存在でなくてもいいから。
急に黙ってしまった私に、アラタはまた心配そうに声をかけてくれた。
アラタには、こんなこと言えない。
私は胸にあふれてくる思いを押さえ込むのに必死だった。
すると、アラタは思いもよらないことを口にした。
アラタはいたずらっぽく笑って、家とは反対方向へ歩きだしたから、
私もあわてて、後をついていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!