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2021/01/18

第51話

番外編 アラタの物語 ~あの日、僕は~①
アラタのお母さん
ひまりちゃん、今日はホントに残念だったわね。
全国大会まで、あと少しだったのに……
アラタのお母さん
途中まで、すごくいい調子だったから、勝てると思ったんだけどね
車の助手席に座っていた母さんが残念そうに言うと、運転していたひまりのお母さんもうなずいた。
ひまりの母
相手チームの最後の巻き返しがなければねぇ……
ひまりの母
やっぱり全国大会って、そう簡単に行かせてもらえないのね
アラタのお母さん
本当に。
残念でしかたないわ
僕は後部座席で、母さんたちの会話をぼんやりと聞いていた。

ついさっき、ひまりのテニスの試合が終わって、僕たちはひまりのお母さんが運転する車で、家に帰るところだ。

隣の席では、試合で全てを出し尽くし、疲れ果てたひまりがうたた寝をしている。

ひまりの母
でも、負けは負けだしね。
こうなったら、残念会ってことで、ひまりの好きな焼肉でも行っちゃう?
パーっとさぁ!
ひまりのお母さんは、運転しながら景気よく言った。
アラタのお母さん
そうよね!
こんな日はしんみりするより、みんなで騒いだほうが気分も切り替わったりして
アラタのお母さん
どう、ひまりちゃん?
そう言って振り返った母さんに、
僕は、しーっと人差し指を立てた。
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまりは寝てるから、
静かにしてあげてよ
アラタのお母さん
あら、ひまりちゃん、よほど疲れたのね
アラタのお母さん
今日はほんとに頑張ってたから、そっとしてあげなくちゃね
母さん達は多少声のトーンを抑えて、どこの焼肉屋に行くかを楽しそうに話し始めた。
井川 アラタ
井川 アラタ
(母さん達は、ただ自分たちが焼肉を食べたいだけじゃないか?)
心の中で思って、はあっとため息が出た。

……ひまりは、今日、本当に疲れてるんだ。
今日勝ったら、夢の全国大会だった。

ひまりはこの日のために、何ヶ月も前から通常の倍の練習をしていた。
僕はずっと、ひまりのがんばりをそばで見てきたから、どれだけ大変だったかを知っている。
……きっと、誰よりも。
僕は井川アラタ。中学二年生。

三軒先に住むひまりとは幼なじみだけど、
ひまりは僕にとって、何より大切な存在だ。

僕はずいぶん前から、ひまりに片思いをしている。
ひまりは背が高くて、美人で、しっかりもの。
面倒見のいいお姉さんタイプで男女ともに人気だけど、とりわけ中学校に入ってからは、あちこちでひまりのことをねらっている男子がいると聞くから、油断ならない。

でも今のところ、ひまりはテニスに打ち込んでいるからか、男の影は全くない。
僕にはひまりの幼なじみという、大きなアドバンテージがある。

面倒みのいいひまりは、昔からの癖で僕の世話を焼いてるだけなのに、はたから見ると、僕たちはけっこう仲良く見えるらしい。

おかげで、ひまりを狙う男たちの数をだいぶ減らすことができたけど、そんなことお構いなしに告白する奴だっている。

次期生徒会長と言われたモテ男子も、ひまりに告白していた。
けれど、すぐ断ったところを見ると、今のところひまりは彼氏を作るつもりがなさそうでホッとする。