向こうからキャプテンの声が響いて、
私は、胸の前でギュッと拳を握る。
私はしっかりと前を見つめて、チームのもとへと向かった。
* * * *
私は橘先輩に頭を下げて、すぐに自販機まで走り出した。
思った以上の暑さに、朝から水筒のお茶をほとんど飲んでしまって、今補充しないと最後までもたない。
自販機で買ったスポーツドリンクを抱えて、みんなのところへ戻ろうとした時だった。
後ろから聞こえた声に振り返ると、そこにはユニフォーム姿の戸倉くんがいた。
そんな戸倉くんに、思わず笑顔がこぼれる。
戸倉くんは、大きな手で私の頭をぽんとやさしくたたいてから、戻っていった。
その優しさが、私に力をくれる。
最近、すこしずつ戸倉くんの優しさに惹かれている自分に驚く。
急いで来た道を戻ろうとすると、一瞬、体がふらついた。
私はスポーツドリンクのキャップを開けると、グイグイと一気に飲んだ。
* * * *
監督から気合の入った声をかけてもらうと、私たちはいよいよコートへと向かった。
炎天下のコートに出たとたん、あまりの暑さにクラっとする。
緊張もあいまって、いつもよりも暑さが体にのしかかってくるみたいだった。
応援スタンドを見ると、お母さんとアラタのお母さんが手を振ってくれていた。
私も、二人に手を挙げてこたえる。
私たちはこれまでずっと、できる限りお互いの試合の応援にいっていた。
けど、もちろんアラタはいない。
今頃、アラタもイベントに向けてドキドキしながら準備してるのかな。
もう、アラタはたよりない男の子じゃない。
仲間に支えられながら、自分で道を切り拓いていく強い男になった。
そして、隣にはしっかりもので優しい杏奈さんがいてくれるんだから。
ピーッと審判の吹く笛の音がコートに響いて、一気に緊張感が高まった。
……いよいよ、始まる!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。