第40話

強くなんか、ない
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2021/01/06 02:43
井川 アラタ
井川 アラタ
……ひまり、具合はどう?
アラタは、まだ少し怒ってるみたいだったけど、私を気遣う言葉にはいつもの優しさが込められていて、ほっとする。
私は、ぽつぽつと話し出した。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
……ゆっくり休んだから、もう大丈夫。
軽い熱中症だけど、これ以上何もなければ、帰れるみたいだし
そう言うと、アラタはホッと胸をなでおろす。
井川 アラタ
井川 アラタ
……よかった。
さっきイベントに来た母さんから、ひまりが試合中に倒れて救急車で運ばれたって聞いて、
いてもたってもいられずに、ここまで来たんだ
よくよく見れば、アラタは全身ばっちりオシャレしているけど、額には汗が流れて、せっかくセットした前髪がおでこに張り付いている。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(暑い中、必死で走ってきてくれたの……?)
佐護 ひまり
佐護 ひまり
アラタ、大事なイベントがあるんでしよ?
こんな所にいていいの?
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまりが倒れたっていうのに、
イベントなんて行ってる場合じゃないよ!
佐護 ひまり
佐護 ひまり

アラタは今日のイベントのために、頑張ってきたはずなのに。
私を心配してくれるアラタの優しさに、胸がギュッとなる。

すると、アラタがポツリとつぶやいた。
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまりは……、戸倉のことが好きなの?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
アラタの言葉に、胸をつかれた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(やっぱり、戸倉くんとキスしてたの、見られてたんだ……)
よりによって、どうしてあのタイミングで?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(アラタにだけは、見られたくなかったのに)
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまりが戸倉のこと好きなら、これ以上は言わない。
けど、戸倉が無理やりひまりに迫ったなら、僕は……
再び、怒りを抑えながら言ったアラタに、私は慌てて顔を上げた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ううん、それは違う!
戸倉くんは悪くないの!
私が戸倉くんをかばうと、アラタはわずかに目を細める。
井川 アラタ
井川 アラタ
じゃあ、ひまりは……
佐護 ひまり
佐護 ひまり
……わからない。
戸倉くんのことが好きなのか、
自分でもよくわからない
井川 アラタ
井川 アラタ
どういうこと? 
じゃあ、なんで戸倉とキスしたんだよ!?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
それは……
アラタに怒られて、やっと目が覚めた。
本当は、自分でもわかってた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(……私、寂しくて、流されてた)
自分の弱さと情けなけなさに、思わず涙がにじんだ。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
アラタが怒るのも、当然だよ。
私、ずっと寂しくてしかたなかった。
……辛い時、そばにいてくれて、優しくされたら、甘えたくなる時もあるよ。
私、そんなに強くない……
こらえていた涙が、シーツにぽたぽたと落ちる。
……アラタはこんな私のこと、なんて思っただろう。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ははっ、アラタもあきれたでしょ
涙をぬぐって、
無理やり笑おうとしたときだった。
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまり
私は立っていたアラタに、上から抱きすくめられた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
えっ……?

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