第33話

大会の朝
1,245
2020/12/31 04:36
次の日の朝。
リビングに下りていくと、お母さんが私の顔を見るなり、
お母さん
ひまり、目が真っ赤よ? 
今日は大事な試合だっていうのに、大丈夫?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
うん……。ちょっと寝不足
お母さん
今日の相手は優勝候補だって言ってたし、緊張して寝られなかったのね
佐護 ひまり
佐護 ひまり
そうだね……

アラタと杏奈さんのことが頭から離れなくて、寝不足どころか、ほとんど寝れていない。

明日は試合なんだから寝なくちゃって、思えば思うほど寝られなくて。
けっきょく、明け方に少しウトウトしたくらいで、今も頭が重い。

食欲はなかったけど、とりあえずオレンジジュースのコップを手に取った。
お母さん
でも、ひまりたちのペアだって強いみたいだから期待してるわよ? 
今日は、あっくんのお母さんと二人で応援に行くからね!
佐護 ひまり
佐護 ひまり
えっ? アラタのお母さんと?
おもわず、飲んでいたジュースでむせそうになった。
お母さん
そうよ。
午前中にひまりの試合を見たあと、あっくんの応援に行こうと思って。
ひまりも知ってるでしょ? 
あっくんの読モの選抜投票、今日のイベントで発表だから。
志穂さんがイベントのチケットを取っておいてくれたの
佐護 ひまり
佐護 ひまり
へぇ……
お母さん
あっくんが選ばれるといいんだけどね!
ああ、私もドキドキするわぁ!
お母さんは、自分の息子のことのように
はしゃいでいる。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(やっぱり、アラタのイベントは今日だったんだ)
どのみち私は試合で行けないけど、もちろん、アラタからは何の連絡もなかった。

アラタはのめり込むと周りのことが見えなくなるから、うっかり私のことなんて忘れてるのかもしれない。
お母さん
あっくんの投票結果がでたら、ひまりにもすぐに教えるからね。
ひまりも気になるでしょ?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
別に……、どっちでもいいけど
お母さん
えっ?
ほんとうに、どっちでも良かった。

選ばれても選ばれなくても、どのみちアラタは私から離れていくんだから。

お母さんは私の返事に少し戸惑っていたけど、時計を見てあわてだした。
お母さん
あら、もうこんな時間?
早くお弁当詰めないと。
今日も暑くなるみたいだから、こまめに水分とってよ?
お母さんは、せわしなく水筒にお茶を入れ始めた。
*    *    *    *

午前9時前。
いよいよ私たちは、試合会場のテニスコートにやってきた。

真っ青な空を仰ぐと、いやでもぎらつく太陽が目に入る。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
あつーい!
秋本 柚葉
秋本 柚葉
今日も軽く35度超えてくるみたいね。
すでにバテそうだよ
ゆずは持っていた保冷剤を、私の首筋に当てる。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
冷たっ!
秋本 柚葉
秋本 柚葉
ひま、昨日はちゃんと寝た? 
顔色が良くないように見えるけど
うう、なんでゆずにはいつもバレバレなんだろう……。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ちょっと寝不足……
秋本 柚葉
秋本 柚葉
だから早く寝なって言ったのに。
……なんて、実は私も緊張してあんまり寝れなかったんだけどね
佐護 ひまり
佐護 ひまり
 ゆずが、緊張?
秋本 柚葉
秋本 柚葉
あのね、私だって緊張するっての。
こうみえて、けっこう繊細なんだから。
……昨日に限って、アキともケンカしちゃったし
佐護 ひまり
佐護 ひまり
あの優しそうな彼氏と、ケンカ?
秋本 柚葉
秋本 柚葉
アキだって、いつも優しいわけじゃないよ。
今年は大学受験を控えていつもピリピリしてるし。
時々、八つ当たりっぽいこと言われるから、こっちもイラっとするんだよね。
今日も模試らしいんだけど、私だって大事な試合なんだから。
ホント参るわ
いつもは、あまりグチをこぼさないゆずが、めずらしい。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
いつも落ち着いてるゆずでも、
怒ったりケンカするんだ
秋本 柚葉
秋本 柚葉
ケンカなんてしょっちゅうだよ。
その度に、もう別れようかと思ったりもするけど……、
やっぱりアキには、そばにいてほしいんだよね
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(どんなにケンカしても、
そばにいたい……、か)
わかるよ。
私だって、アラタのそばにいたいから。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(けど、それはもう無理なのかもしれない)
そろそろ私も、その事実を受け入れないといけないのかな。

青い空を見上げて、イベントを控えたアラタのことを思った。

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