第7話

ひまりの説得
1,605
2020/11/14 15:49
カフェを出てみんなと分かれてから、
私は一人でうなりながら、帰り道を歩いていた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
さて、どうやってアラタを説得するか、だよね
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(アラタは一度やり始めたら粘り強く続けるタイプだからな……)
習い事でも、私はいろんなスポーツをやっては、すぐ飽きちゃってたけど、
アラタは、一年生から始めたスイミングと英会話を六年間やり通した。

中学校は野球部で、大活躍したわけじゃないけど、
一生懸命、練習に出てがんばっていた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(しかも、誰かに頼まれたり頼られると、
無理してでもやってしまうお人好しなところもあるし)
読モとして、だんだん周りから期待されたり応援されてる今、
アラタは、期待に応えようとはりきっているはず。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
うーん、これは簡単にやめるとは言わないだろうな……
大きなため息をついたとたん、
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまり!
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ふあっ!!??
いきなり後ろから声をかけられて、びくっと肩を揺らした。
井川 アラタ
井川 アラタ
さっきから何回も呼んでたのに、どうしたの?
振り返ると、アラタが不思議そうな顔をして私を見ている。
少し首をかしげるしぐさが、かわいい。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ご、ごめん。考え事してて。……びっくりしたよ
井川 アラタ
井川 アラタ
すごい集中力だね。何か悩みごと?
アラタは心配そうに私の顔をのぞき込んだけど、
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(って、アラタのことで悩んでるんだからね!)
佐護 ひまり
佐護 ひまり
まぁ、いろいろと? 
そういえば今日は、お仕事ないの?
井川 アラタ
井川 アラタ
うん。今日はないよ。
けど、もうすぐ私服の撮影があるから、その日の服を見に行こうかなって
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(あっ、ちょうど読モの話になったし、今言わなくちゃ!)
私はひとつ咳払いをしてから、落ち着いた口調で切り出した。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ねぇ、アラタ、読モの仕事って楽しいの? 
昔からモデルをやりたかったわけでもないのに
井川 アラタ
井川 アラタ
え? ああ、そうだね。
最初はそんなつもりなかったんだけど、実際に始めたらすごく楽しいよ。
オシャレって奥が深いっていうか、
服や髪型を少し変えるだけで雰囲気ががらっと変わって、おもしろいんだ
アラタは目を輝かせている。
やばい、この表情は、アラタが何かにすごくハマってる時の顔だ。

私はあせってつづけた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
でも、モデルって身長高くないとダメなんじゃないの?
アラタはそんなに背が高くないのに……
井川 アラタ
井川 アラタ
それがさ、そんなに背が高くないからいいんだって。
背が低めの男子代表として、
どうやって服を着こなしたらいいかっていう手本になるらしいよ
佐護 ひまり
佐護 ひまり
そう、なの?
井川 アラタ
井川 アラタ
実際に、背の低いのが悩みの読者さんから、
応援のメッセージがあったらしくて。
……それを聞いて、すごく嬉しくなったんだ。
僕がモデルやって、誰かのためになれるなんてね。
こんな風に認めてもらえたこと、生まれて初めてかもしれない
佐護 ひまり
佐護 ひまり
へぇ……
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(なんだか、アラタの笑顔がまぶしく見える……って、応援してる場合じゃなかった!
私はアラタに読モをやめてほしいんだから!)
私は大きく息を吸い込んでから、覚悟を決めた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
……でも、私はアラタが読モやるのには反対だよ。
このまま読モの世界にどっぷり浸かっていくのは、
アラタのためになるとは思えない
井川 アラタ
井川 アラタ
え?
アラタは少なからずショックだったみたいで、
しばらく私のことをじっと見ていたけど、しばらくしてポツリとつぶやいた。
井川 アラタ
井川 アラタ
……ひまりはさ、僕が読モやるなんて、無理だと思ってる?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ムリだなんて思ってないけど、心配してるんだよ。
最近、早退や欠席も多いし、勉強が遅れちゃうんじゃないの?
せっかく頑張って勉強して今の高校に入ったのに、
読モなんてやってていいの?
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまり、心配してくれてありがとう。
でも、実はけっこう勉強してるよ。
撮影の待ち時間を利用して宿題してるし、
テスト前は、読モの仲間が教えてくれたりするんだ
佐護 ひまり
佐護 ひまり
読モの人たちが?
井川 アラタ
井川 アラタ
うん。大学生とか、すごく頭のいい子もいるしね
読モの人たちって、オシャレして軽そうに見えるけど、
勉強がんばってる人もいるんだ。
井川 アラタ
井川 アラタ
今は、勉強も読モの仕事もどっちも頑張りたいんだ。
ひまりが心配するのも無理ないけど、
僕、ひまりに認めてもらえるようにもっと頑張るよ!
……うん、なんか気合入ったかも!
佐護 ひまり
佐護 ひまり
え? え?
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまり、ありがとう!
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(ちょっと待って、かえって気合い入っちゃってる!?)
さらに前向きな顔をして、先を歩くアラタに、私はがっくりと肩を落とした。
――第一ラウンド、私の完敗です……。

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