戸倉くんは、あまりに普通の会話っぽくサラっと言ったから、
一瞬流しそうになったけど。
私はフリーズしたまま、戸倉くんを見上げる。
その軽いノリに、私ははっと我に返った。
あきれながら言うと、戸倉くんは急に真面目な顔になって、
戸倉くんがまっすぐに私を見つめる。
その表情がいつもの戸倉くんじゃなくて、胸がドキっと音をたてた。
頭の中が真っ白になった。
……たしかに今日もボールを渡すとき、そんなこと言ってたっけ。
ストレートな戸倉くんの言葉に、かあっと顔が熱くなる。
戸倉くんがそんな風に私のことを見ててくれてたなんて。
はずかしいような、うれしいような。
突然の告白に、胸のドキドキはすぐにおさまりそうにない。
あらためて確認されて、私はうなずくしかなかった。
私たちは、それ以上でもそれ以下でもない。
自分で言って、少し胸が苦しくなる。
がんばるっていわれても、私はどうすればいいんだろう。
戸惑っている私に、戸倉くんはいつもの笑顔になって、明るく言った。
そうして戸倉くんは、手を挙げて来た道を戻って行った。
私は立ち止まって、しばらくの間、戸倉くんの後ろ姿を見つめていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!