第16話

夕暮れの帰り道
1,364
2020/11/21 14:56
バスに揺られてぼんやりと外の風景に目をやると、日暮れの空は水色とオレンジのグラデーションになっていた。
戸倉 翔太
戸倉 翔太
『俺、ひまりんのこと好きだし』
ふと、戸倉くんの言葉が蘇ってきて、また顔が赤くなる。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(いきなり言われても……)
正直、うれしいっていうよりも、ビックリのほうが大きかった。
まさか戸倉くんが私のことを好きだなんて、考えたこともなかったし。

でも、戸倉くんが軽々しく告白したわけじゃないことは伝わってきた。
きっと、本気の告白だったと思う。
戸倉くんは明るくて楽しいし、付き合って、なんて言われたら
多くの女の子は喜んでOKするよね?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(私もアラタがいなかったら、付き合ってたかもしれない……けど)
急にアラタの笑顔を思い出して、胸がぎゅっとなる。
……やっぱり私はアラタが好きなんだ。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(アラタ、どうしよう。
私、戸倉くんに告白されちゃったよ)
……なんて、アラタにはどうでもいいことかもしれない。
私はため息をついて、バスの窓に頭を預ける。
こんなふうにずっと好きなのは、私だけなのかな。

アラタにとって私は、姉のような存在。
ゆずの言うとおり、もし私のことが好きならとっくに告白してるよね。
こんなに長い時間をいっしょに過ごしてきたけど、
私にときめいたりしたこと、一度だってあったのかな。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(そんな雰囲気になったことなんて、一度もないかも……)
戸倉くんは私のこと、ひとめぼれだって言ってた。
出会って三ヶ月で告白なんて、早すぎる気もするけど……。
中野 美桜
中野 美桜
……長い付き合いだと動けなくなってきちゃうと思うの。
好きになってすぐ告白、くらいの勢いって大事なんじゃないのかなって
ふと、美桜の言葉を思い出す。

でも私はそんなにかんたんに、アラタのことを忘れられないよ。
アラタのこと考えるほど、せつなくなって。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(アラタに、会いたい。……今すぐに)
私はバスから降りると、まだ明るさの残った帰り道を無我夢中で走り出した。
いまアラタが家にいるのかはわからない。
それでも、息を切らして全速力で走り続けた。
アラタの家の前まで来ると、息を弾ませながら二階のアラタの部屋の窓を見上げた。
……電気はついていない。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
まだ帰ってないのかな……
はやる気持ちをおさえつつ、インターホンを鳴らすと、
アラタのお母さんがはーいと答えてくれる。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ひまりです。……アラタはいますか?
アラタのお母さん
あら、ひまりちゃん。
ごめんね、アラタはまだ帰ってないわ。
そろそろ帰ってくると思うんだけど、何か用事だった?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
いえ、たいした用じゃないのでいいです
アラタのお母さん
ほんとに?
ひまりちゃんが来たこと、伝えておくわね
佐護 ひまり
佐護 ひまり
はい……
私はアラタの家を出ると、歩道の縁石に座った。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(アラタに会いたいよ……)
いろんなことがあって、頭の中はぐちゃぐちゃで。
自分でもどうしたらいいのかわかんないよ。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(お願い、アラタ。早く帰ってきて……!)
だんだん暮れていく空を見上げて、すがるように願った。

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