バスに揺られてぼんやりと外の風景に目をやると、日暮れの空は水色とオレンジのグラデーションになっていた。
ふと、戸倉くんの言葉が蘇ってきて、また顔が赤くなる。
正直、うれしいっていうよりも、ビックリのほうが大きかった。
まさか戸倉くんが私のことを好きだなんて、考えたこともなかったし。
でも、戸倉くんが軽々しく告白したわけじゃないことは伝わってきた。
きっと、本気の告白だったと思う。
戸倉くんは明るくて楽しいし、付き合って、なんて言われたら
多くの女の子は喜んでOKするよね?
急にアラタの笑顔を思い出して、胸がぎゅっとなる。
……やっぱり私はアラタが好きなんだ。
……なんて、アラタにはどうでもいいことかもしれない。
私はため息をついて、バスの窓に頭を預ける。
こんなふうにずっと好きなのは、私だけなのかな。
アラタにとって私は、姉のような存在。
ゆずの言うとおり、もし私のことが好きならとっくに告白してるよね。
こんなに長い時間をいっしょに過ごしてきたけど、
私にときめいたりしたこと、一度だってあったのかな。
戸倉くんは私のこと、ひとめぼれだって言ってた。
出会って三ヶ月で告白なんて、早すぎる気もするけど……。
ふと、美桜の言葉を思い出す。
でも私はそんなにかんたんに、アラタのことを忘れられないよ。
アラタのこと考えるほど、せつなくなって。
私はバスから降りると、まだ明るさの残った帰り道を無我夢中で走り出した。
いまアラタが家にいるのかはわからない。
それでも、息を切らして全速力で走り続けた。
アラタの家の前まで来ると、息を弾ませながら二階のアラタの部屋の窓を見上げた。
……電気はついていない。
はやる気持ちをおさえつつ、インターホンを鳴らすと、
アラタのお母さんがはーいと答えてくれる。
私はアラタの家を出ると、歩道の縁石に座った。
いろんなことがあって、頭の中はぐちゃぐちゃで。
自分でもどうしたらいいのかわかんないよ。
だんだん暮れていく空を見上げて、すがるように願った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。