第18話

星空の思い出
1,385
2020/12/04 11:07
私たちは住宅街を抜けて、長い石段を登ったところにある神社までやってきた。
小高い位置にあるこの神社からは、住宅街の光を見下ろすことができる。

私たちは、石段の一番上に腰を下ろした。
井川 アラタ
井川 アラタ
今日は、星がよく見えるね
アラタに言われて空を見上げれば、
木々の間からたくさんの星がまたたいている。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ホントだ、綺麗……
しばらくのあいだ、私たちは黙ったまま、たくさんの星が煌めくのを見つめてた。
星を見てると、モヤモヤしていた気持ちが少しずつ晴れていく。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ここで星を見るの、ひさしぶり
井川 アラタ
井川 アラタ
僕も。何年ぶりかな
ふと、隣のアラタに目をやると、
星を眺めるアラタの横顔が昔の記憶と重なった。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(……前にも、こうして二人で星を見たっけ)
あれは、小学校六年生の夏。
私は陸上大会でリレーの選手に選ばれたけど、
私がバトンパスをミスしたせいで、うちのチームは最下位になってしまった。
みんなは仕方ないって言ってくれたけど、悔しくて悔しくて。
絶対にみんなの前では泣きたくなかったから、一生懸命我慢してた。

そうして家に帰ったら、アラタは私をこの神社に連れ出して、星を見ようって言ってくれたんだ。
何も言わず、ただ二人で星を見てた。

……そこで、私はやっと泣けた。
思い切り泣いて、泣いて。
アラタは何も言わずに、ただそばにいてくれた。

気がすむまで泣いて帰ったら、夜の九時を回っていて、二人しておもいきり怒られたっけ。

あの日のことを思い出して、思わずふふっと笑ってしまう。
井川 アラタ
井川 アラタ
……今日は、泣かないんだ?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
え?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(今日は……って、もしかして、
アラタもあの日のことを思い出してたの?)
じっと見つめていると、アラタは優しい瞳を返してくれる。
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまり、元気なかったから。
けど、泣くほどじゃないなら、よかった
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(もしかして、私が思い切り泣けるように、ここに連れてきてくれたの……?)
アラタの優しさに、胸がじんと熱くなる。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
アラタ、ありがとう
ぽつっとつぶやいた私の言葉に、アラタは少し照れながら言った。
井川 アラタ
井川 アラタ
余計なことかもしれないけど……、
ひまりは悩みごとがあっても、いつも言わずに一人でため込むから。
心配してるよ
佐護 ひまり
佐護 ひまり
アラタ
井川 アラタ
井川 アラタ
僕でよければ聞くけど……、
僕なんかじゃ、頼りにならないよね
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ううん、そんなことないよ。
……ただ、このことはもう少し、自分で考えたいから。ごめん
こんな悩み、アラタに言うわけにはいかないよ。
井川 アラタ
井川 アラタ
……そっか
すると、アラタはいきなりぽんと私の肩をたたいて、
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまり、いきなりテニスの大会に出ることになってプレッシャーもあると思うけど……、
ひまりならきっと乗り越えられるから、大丈夫だよ!
佐護 ひまり
佐護 ひまり
う、うん?
いきなりテニスの話が出てきて、一瞬頭がついていかなかったけど、
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(もしかして、私がテニスのことで悩んでると思ったの?)
少しずれてるけど、アラタが私のことを励ましてくれたのはうれしい。

私が元気ないときはいつだって、私の心に寄り添ってくれた。
そんなアラタの優しさが、いつも私を支えてくれたんだよ。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
ありがとう
いつまでも、アラタの優しさに包まれていたい。
そんなことを願いながら、星空を見ていた時だった。

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