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第55話

最終話 アラタの物語 ~あの日、僕は~⑤
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2021/01/22 08:07
けれど、本当に申し訳ない気持ちを抱えながらも、心のどこかで、ひまりのファーストキスを手にしたと喜んでいる自分がいる。

近い未来、いつかひまりに彼氏ができてキスをしたって、ファーストキスが僕だったことは変わらない。
井川 アラタ
井川 アラタ
(……ものすごくずるいやり方だけど、ひまりの初めてのキスは僕のものだ)
そう思った途端、自分の中に、言い知れぬ優越感が広がった。

僕は、本当にずるくて小さな男だと思う。
こんなやり方でしか、ひまりを手に入れられないなんて。
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまり、ごめん……

寝ているひまりの顔にかかった髪を、そっと耳にかける。
井川 アラタ
井川 アラタ
(ひまりが目を覚ましたら、僕はいつも通りの幼なじみに戻る)
……ひまりは、ずっと知らないままでいい。
井川 アラタ
井川 アラタ
(いつか、本当に好きになった相手と、初めてのキスをしたと思ってくれればいい)
けれど、約束するよ。

もしひまりに、本当に好きな人ができたなら、僕は今日のことを心の糧にして、笑顔で送り出そう。

僕はひまりの幸せを、目をそらさずに見届けるから。
井川 アラタ
井川 アラタ
……ひまり、好きだよ
───僕は一生、この日のことを忘れない。

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