私と橘先輩は、挨拶をしてから自分のポジションへとつく。
前に立つ、橘先輩の後ろ姿を見て、
今一度、気合を入れなおす。
けれど、今日の暑さは異常なまでに私を苦しめる。
少しでも気を抜くと、暑さで頭がボーっとしてしまう。
一瞬、視界が狭くなって、あわてて頭を振る。
私は、相手側のサーブをにらむようにして待っていた。
相手の打ったボールが、目にも止まらぬスピードで私のエリアにくる。
私はすぐに反応して、ボールめがけてダッシュした、……はずだったのに。
なぜか体はいうことをきかず、
私は一歩もそこから動かずにいた。
というより、動けなかった。
目の前に暗幕がさっと下りたように、視界が真っ暗になる。
私は、そのまま崩れるようにコートに倒れこんだ。
次第に遠のく意識の中、橘先輩がやってくるのがわかった。
絞り出すように言ったその言葉は、ほとんど声にならなかった。
……そして、私の意識は完全に途切れた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!