第54話

番外編 アラタの物語 ~あの日、僕は~④
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2021/01/21 06:13
すると、肩の方から小さな声が聞こえた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
アラタ……
井川 アラタ
井川 アラタ
えっ?  何?
いきなり呼ばれて、心臓が飛び出るかと思った。

僕はとっさに、この密着した状態をどう説明しようかなんて考えたけど、当のひまりは、さっきと変わらない安らかな顔で寝ていた。
井川 アラタ
井川 アラタ
寝言……
ほっとしつつも、僕の心臓はまだ、どくどくと鳴り響いている。
井川 アラタ
井川 アラタ
……どうして、このタイミングで僕の名前を呼ぶんだよ
こんなに近い距離で見つめていると、
もう、ひまりから目をそらせない。
井川 アラタ
井川 アラタ
(……触れてみたい。今すぐに)
そんな思いが僕の中を通りぬけたとき、僕は自分の唇を、ひまりの唇にそっと重ねていた。
ひまりの唇は、思っていたよりもずっと柔らかくて、驚きと愛しさでいっぱいになる。

そして唇を離して、何も知らずに寝ているひまりをもう一度見たとき、
……僕は、我に返った。
井川 アラタ
井川 アラタ
!!
───僕、今、何をした!?

自分のした事の重大さが、じわじわと胸に迫ってくる。
井川 アラタ
井川 アラタ
(ひまりにキスするなんて……、
僕はなんてことしたんだろう!?)
一気に後悔の念が押しせて、冷や汗が出る。
僕はひまりを起こさないように気をつけながら、そっと離れると、一人で頭をかかえた。
井川 アラタ
井川 アラタ
(……ただ、ひまりに触れたかったんだ)
井川 アラタ
井川 アラタ
(ひまりを見てたら、止まらなかった)
……だけど、ひまりはどうなんだ?

僕が知る限り、ひまりにはこれまで彼氏なんていなかったし、たぶんこれがファーストキスだと思う。

まさか寝ているあいだに、初めてのキスを幼なじみに奪われていたなんて、ショックに決まってる。
井川 アラタ
井川 アラタ
ひまり、ごめん……
寝ているひまりに、こっそり謝ったけれど、こんなことが許されるわけがない。

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