第45話

ありがとう、ごめんね
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2021/01/11 01:33
枕に顔をうずめてうなっていると、
コンコン、と病室のドアをノックする音がした。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
あ、……はい!
私はあわてて起き上がって扉の方を見ると、静かに開いた扉から戸倉くんが入ってきた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
あ……
急に戸倉くんとのことを思い出して、複雑な気分になる。
戸倉 翔太
戸倉 翔太
……井川はもう、帰ったんだ?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
うん
戸倉くんは、さっきまで座っていた椅子に、もう一度腰をおろした。

佐護 ひまり
佐護 ひまり
(アラタとの事、戸倉くんにどう話せばいいんだろう)
一人であれこれ考えていると、戸倉くんが両手を頭の後ろに回して天井を仰いだ。
戸倉 翔太
戸倉 翔太
あーあ。
……あそこで井川が来なかったらなぁ
佐護 ひまり
佐護 ひまり
戸倉くんの言葉に、はっとなる。
戸倉 翔太
戸倉 翔太
……悔しいけど、しかたないよな
そう言って、戸倉くんはちょっと寂しそうに笑った。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
(……戸倉くんはわかってるんだ。私とアラタのこと)
……なんだか、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

戸倉くんはいつだって、私の事を思って、そばで支えてくれたのに。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
……戸倉くん、ごめんなさい
戸倉 翔太
戸倉 翔太
あやまるなって。
……ずっと井川のこと、好きだったんだろ?
うまくいってよかったな
どこまでも優しい戸倉くんの言葉に、思わず泣きそうになる。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
私……、ずるいよね。
戸倉くんの優しさに甘えようとしてた
戸倉 翔太
戸倉 翔太
……ずるいのはお互い様だよ。
俺だって、ひまりんが弱ってるところを狙って、あわよくばって思ってたし
佐護 ひまり
佐護 ひまり
戸倉くん……
戸倉 翔太
戸倉 翔太
さっき、俺に気持ちが傾いてくれてるのかなって思ったんだけど
戸倉 翔太
戸倉 翔太
……井川にやられたな。
たった十分で、ひまりんの気持ちを持って行かれた
戸倉くんは肩をすくめて苦笑する。
戸倉 翔太
戸倉 翔太
……ひまりんは、いつから井川のことが好きだったの?
佐護 ひまり
佐護 ひまり
……今となってはよくわからないけど、もうずっと前から。
きっと、初めてアラタの笑顔を見た時から、ずっと
私の言葉に、戸倉くんは深いため息をついた。
戸倉 翔太
戸倉 翔太
それじゃ、かなわないな。
さっきの十分には、ひまりんと井川の数年分の思いがつまってるってことだもんな
佐護 ひまり
佐護 ひまり
うん……
小一の時にアラタと出会って、はや九年。
今になって、一緒に過ごした時間の重みを感じる。
すると、戸倉くんはおもむろに椅子から立ち上がった。
戸倉 翔太
戸倉 翔太
じゃ、俺はそろそろいくよ
佐護 ひまり
佐護 ひまり
えっ?
戸倉 翔太
戸倉 翔太
さっき、ひまりんのお母さんに電話して目が覚めたことを伝えたら、こっちに来るって言ってたから。
もうすぐ着くと思うよ
佐護 ひまり
佐護 ひまり
そっか。
戸倉くん……、
今日は本当にありがとう
佐護 ひまり
佐護 ひまり
そして、ごめんなさい
戸倉 翔太
戸倉 翔太
もういいって。
俺も、前に進まないとな
戸倉くんは、強がって笑ってみせた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
戸倉くんはモテるし、優しいから。
私よりもずっとステキな彼女ができるはずだよ
戸倉 翔太
戸倉 翔太
どうかな。
中学時代はいつも告られて、なんとなく付き合ってたけど、本気で好きになれる子はいなかったんだ
戸倉 翔太
戸倉 翔太
ひまりんは、初めて自分から好きになったんだよ
佐護 ひまり
佐護 ひまり
そう、なの……?
戸倉 翔太
戸倉 翔太
まぁ、初恋は実らないってやつかな
戸倉 翔太
戸倉 翔太
……じゃ、お大事に
戸倉くんは軽く手を挙げて、扉の方へ歩き始めた。
佐護 ひまり
佐護 ひまり
……ありがとう、戸倉くん
去っていく背中に言ったけれど、戸倉くんはもう振り返ることなく、病室を出て行った。

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