枕に顔をうずめてうなっていると、
コンコン、と病室のドアをノックする音がした。
私はあわてて起き上がって扉の方を見ると、静かに開いた扉から戸倉くんが入ってきた。
急に戸倉くんとのことを思い出して、複雑な気分になる。
戸倉くんは、さっきまで座っていた椅子に、もう一度腰をおろした。
一人であれこれ考えていると、戸倉くんが両手を頭の後ろに回して天井を仰いだ。
戸倉くんの言葉に、はっとなる。
そう言って、戸倉くんはちょっと寂しそうに笑った。
……なんだか、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
戸倉くんはいつだって、私の事を思って、そばで支えてくれたのに。
どこまでも優しい戸倉くんの言葉に、思わず泣きそうになる。
戸倉くんは肩をすくめて苦笑する。
私の言葉に、戸倉くんは深いため息をついた。
小一の時にアラタと出会って、はや九年。
今になって、一緒に過ごした時間の重みを感じる。
すると、戸倉くんはおもむろに椅子から立ち上がった。
戸倉くんは、強がって笑ってみせた。
戸倉くんは軽く手を挙げて、扉の方へ歩き始めた。
去っていく背中に言ったけれど、戸倉くんはもう振り返ることなく、病室を出て行った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!