待って待って、やばいやばい。バレてた。
どうしよう、どうしよう…。
その間に、グク先生がこっちに向かってきてるから、必死に内側から扉を押さえる。
でも、外側から強い力で掃除用具入れの扉を開けられて、そのままグク先生に飛び込む形になる。
直ぐに姿勢を戻す。
『あの…私、誰にも言いませんから。』
早く、ここから逃げたい。
『なにも、見てないですから…』
「まだ俺何も言ってないけど?」
本当に、グク先生なの…?
そんなに冷たい目で、生徒を見るの…?
「…それに、見てただろ。」
何も言えずに俯いてたら、
「やめれば?俺を好きになんの。」
『…へ…?』
「俺はお前が思ってるような生やさしい先生じゃねえよ。」
『猫被ってたんですか…』
「そう、こっちが本当。」
…でも、おかしいのかな?猫被ってたから嫌いとか、そんなの無い。
『…それでも、好きです。』
「高校生活は短いんだから…」
『短いから大事なんです。今やれることをやりたいんです。』
「今やれること?」
『…私が中3の時に、母が病気で倒れて、その時に何もしてあげられなかったんです。そのまま亡くなって。ありがとうの一言も言えなかった…。
だからもう、後悔したくない。』
「それで?…あんなに積極的だったんだ?」
『はい…、でも、もう大丈夫です。グク先生に彼女がいるってわかったし…やっぱり、生徒は先生に恋しちゃダメですね…。』
苦しい嘘だった。
でも、グク先生だって彼女いないって嘘ついたんだから、おあいこだよね。
『…失礼します。』
そう言って、頭を下げて部屋を出ようとしたら、グク先生に腕を掴まれる。
そのまま引き寄せられれば、視界が暗くなる。
わかったのは、グク先生と唇が重なっているってこと。
「じゃあ、その短い高校生活を、俺が貰ってやるよ。」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!