第52話

後悔
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2022/01/09 21:39
小「…?」

お待たせ、と言って出された物に戸惑う

うどん作ったって言ったよね?

僕、まだ寝ぼけてた?


小「…うどんじゃないの?」

清「市川くんがこたにお粥作ってくれたから」

小「…そうなんだ」

きよちゃんは食べなと言って、僕が食べるのを待ってるけど


小「きよちゃんが作ったうどんは?」

清「俺が食べる、まだ夕飯食べてないから」

小「え?」

それはどうなの?僕はきよちゃんのうどんが食べたかったのに


そんな事を思っていると

清「市川くんが折角作ってくれたんやから、少しでもええから食べないと」

そんなの分かってるよ


小「きよちゃんが『うどん』って言ったから僕の口はうどんになってるの!うどん持って来てよー」

清「熱出ると我儘になるとこ、昔と変わってへんなー」

やれやれと言いたげな口調で、それでも笑って部屋を出ていった





小「あーん」

口を開けるとうどんを食べさせてくれる

小「美味しい…これ、きよちゃんが1人で作ったの?何か普通のと違うよ?」

とろみがあって麺も柔らかくて食べやすいし、とても優しい味だった

清「スマホで調べた!美味かったなら良かった」

きよちゃんも嬉しそうな顔で僕を見てくれる


清「ほら、お粥も」

小「きよちゃんの夕飯にして」

清「お前なー…1口食べて!どんな味か分かってないと聞かれた時に困るで?ちゃんと美味しかったって言わなあかんで」

お母さんなの?

そう思ったけど素直に言うこと聞いた

小「うん、美味しいよ」

清「そりゃそうや、市川くんは俺より料理出来るもん」

そう言う問題じゃないんだけどな

きよちゃんはせっせとお粥を食べて、それからうどんの残りも食べた



清「みなとがアイスくれたけど」

小「明日起きたら食べる…」

みんながしてくれる事は本当に嬉しい

嬉しいんだけど


清「ほら、もういいなら寝な」

急かされるけど、僕はまだこの時間を手放したくない

小「もうちょっと…抱っこして」

きよちゃんは少しだけな、と言って抱っこしてくれる

小「なでなでしてよぉ」

清「ん…」

きよちゃんに抱きつくと温かくて気持ちがいい

きよちゃんの匂いを感じながらゆっくりと背中を撫でてもらい、さらに体の力を抜いていく




コンコン

ノックの音がしたと思ったら、いきなり体を押されて

小「わっ」

きよちゃんの膝から落とされる

え、落としたよね?乱暴だよ、きよちゃん…


慶「どう?…あ、お粥食べたんだ?」

市川くんだった

小「うん、美味しかった…作ってくれてありがとう」

どう?ちゃんと言えたでしょ?

落とされて少しムッとしながらきよちゃんを見るけど、きよちゃんはこっちを見ていなかった


市川くんにも寝なよと促されてきよちゃんのベッドに入る

きよちゃんは食器を片付けに行ってしまう

慶「こたは明日はYouTubeの撮影だけの予定だろ?1日休んでていいから」

夕方までに治れば参加したいと思ったけど、それは明日になったら言おうと思って頷いた

慶「無理すんなって言ったのに…」

心配そうに顔を覗き込んで、僕の頬に触れる


あぁ、やっぱりあの時我慢するべきだった、と思った

無理だったからこうなったのに、それでも何とか出来なかったのかと悔やんでしまう


小「市川くん…あのね、」

慶「今は治すことだけ考えて…俺はもう部屋戻るよ」

小「…うん、おやすみ」




きよちゃんはすぐに戻って来なかった

絶対市川くんの事で気を遣ってる

あの時、見られた訳じゃないから誤魔化せると思ったけど、部屋に入ってきたきよちゃんの言動は鋭くて、声も低くて

匂いの事まで言われたから謝ったけど、2人になると微妙な空気になる


どうしよう…

もう僕に呆れちゃってるかもしれない

もう僕なんか要らないって思ってるのかも…





ガチャっと音がしてきよちゃんが入ってくる

清「…こたっ?どうした?具合悪い?」

すぐに駆け寄って僕のおでこに手を当てる

小「グスッ…どうして…すぐに戻ってこないの?」

小「グスッ…僕が…グスッ…この前、市川くんと…グスッ」


涙で思うように言葉が出ないのと、言いにくい内容で胸が苦しくなり、喋っていても涙が次々と溢れてくる

清「ちょっと待って!具合悪いのにそんな事今言わんでええから!」

小「だってっ…グスッ」

清「過呼吸なるで?ほら、落ち着いて…」

きよちゃんが両手を僕の頬に当てながら、指先で涙を拭う

清「ちゃんと元気になったら話聞くから…」

きよちゃんはずっと至近距離で僕の目を見たまま黙って涙を拭った


小「僕のこと…臭くて…汚いと思ってる?」

きよちゃんの指先が一瞬止まる

清「臭いって…言ったけど、それは…ただの嫌味やん…ごめんて」

言いにくそうに喋ったかと思うと

ぷにっと鼻を押される

小「ヤダっ、豚になる!」


きよちゃんの手を鼻から退かして掴む

きゅっと両手で握りしめてきよちゃんを見つめる

清「…ゆっくり休んで」


きよちゃんの手がそっと離れて

唇を撫でた

キスしてくれないかな、と思ったけどすぐに僕のベッドへ行ってしまった

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