第61話

浮気?
2,206
2022/01/28 16:53
一体誰が…

そう考えた時、土曜日一緒に居た市川くんしか頭に浮かばなかった

こたが市川くんと…?


こたが起き上がって屈む度にチラチラと見え隠れする赤い痕が目を釘付けにする

…何で

理由なんて思い浮かばない

こたは変わらず俺に甘えていたから、自意識過剰かもしれないが、心変わりしたとは思えなかった

単なる浮気、身体だけの関係…?

イメージが湧かないけれど、あんな痕はキスマ以外の何物でもない

俺がいるのにこんなもの付けるなんてええ度胸しとるやん





小「きよちゃん、帰ろ」

いつものように俺が送る事が前提で話しかけてくる

元気な声と言うよりは甘えるような声


清「…そういう面倒な事は俺の役割なん?」

小「え?」

俺が黙っていると、言葉の意味を理解したのか

小「…面倒だった?」

戸惑っているのか、恐る恐る聞いてくる


清「そのキスマ付けた奴に送ってもらえば?」

小「…何、キスマって」

あたふたする様子はなく、固まったまま俺を見て言う

清「どう見てもキスマやから、言い訳考えてるんやったら無駄やで?」

胸元を見て攻めるとそっと目を伏せて何も言わなくなる


慶「…何やってんの」

向かい合って黙ったままの俺たちに異変を感じたのか、帰り始めた市川くんがこっちに歩いてくる

帰ってて、と他のメンバーに声を掛けて俺たちの目の前に来た


清「ちょうどええわ…こたのこのキスマは市川くんなん?」

こたのTシャツの首元をグイッと下げて市川くんに見せる

小「やっ…!」

慌ててTシャツを戻そうと俺の手を掴むけど


慶「…」

市川くんの目はこたの胸元だ

見えたんだろう



慶「…酔っ払ってつけただけ、ごめん、それ以上は本当に何もしてないから」

悪いと思ってるのか分からないが、すんなりと認めた

小「市川くんっ」

慶「こたろうは寝てたから、こたろうは何も悪くないから責めないで」


だけど

こたの顔はまるで

僕が悪いです、と言わんばかりの罪悪感でいっぱいの泣きそうな顔



本当に市川くんが無理にキスマをつけたのか分からない

こたが誘ったんだろうか


慶「そんなこたろうを睨むなって、ごめん、俺が悪いから」

清「…人のもんに手出すの最低やで」

慶「ごめん…言い訳だけど酔っ払ってた」

清「酔っ払ってると人の男に手出すんや?」

慶「ごめん、きよはるが納得するまで2人で出掛けたりしないから」

市川くんはひたすらごめんと繰り返す

その度にこたはどんどん俯いていく



清「ほんまに酔っ払ってキスマ付けただけ?こたは気まずそうにしてるけど」

市川くんは俺の顔を真っ直ぐに見たまま頷いた

慶「他は何も、キスもしてない」


手を出したくせに、その恐ろしいほど真顔で真剣な顔に、一瞬市川くんは何もしてないような錯覚に陥った

清「…次こんな事したら許さへんで」

市川くんの迫力に負けように睨みつけ、こたの手首を掴んで歩き出した





小「…きよちゃん」

清「…」


小「…きよちゃんっ、痛いよ」

そう言われても無視した


小「…見られちゃうよ」

もう見られてるだろう

だけど、ようやく手を離した



清「こたは…誰が好きなん?」

いつもより少し早歩きになっていたけど、歩みを止めずに聞く

小「そんなのっ、きよちゃんに決まってるよ!」

清「じゃあ何で簡単にそんな事されてるん?」

小「簡単に!?」

裏返った声が後から響く


小「待ってよ、僕は望んでなかったよ!お願いだからそんな風に言わないでよっ」

確かに寝てるところを不意打ちに会ったなら、それを責めるのは可哀想だ

知らない奴と遊んでた訳じゃない、隙を見せるなと言うのも難しい

市川くんには言いたい事を言ったし、もう俺は何も言えないって事か





清「…気をつけて帰れよ」

いつものセリフを言うけれど、いつものように明るくは出来なかった

こたの顔を見ると、やっぱり泣きそうな顔をしてる


清「こたが悪くないなら、そんな顔すんなよ」

小「…きよちゃんに嫌な思いさせたから」

小「僕っ、きよちゃんに嫌われたくない…」


清「嫌ってないよ」

何に傷ついたか分からないけど、とにかく怒りは悲しみに変わっていた

得体の知れない不安が俺を包み込んでいる


清「…メンバーが酔ってふざけただけ」

自分を納得させるように小さく呟くと


小「僕はきよちゃんが好きだよ…」

アンサーのつもりなのか



少しだけ元気になれたから

清「また明日な」

こたの頭をさっと撫でて見送った





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