エルフの森で潤と約束をしてから、25年の月日が経った。
翔side
俺は、あの時の宣言通り政治家になった。
「エルフとニンゲンは繋がり合うべき」というテーマで論文を書き、人々の間でも話題を呼んだ。
始めは批判や批評などが来たものの、徐々に賛成派が出てきて、今ではニンゲンのほぼ全員が俺の意見に賛成なのだそうだ。
しかし…肝心なところは王様を納得させること。
周りに流されないというところが、あそこまで上り詰めた秘訣なのだろう。
エルフを毛嫌いする王様を、どう説得すればいいか……
それは今考え中だが…何としてでも納得させ、エルフと繋がり合う権利を得たい。
エルフと恋をする権利を得たい。
大学の後輩の田村は、「なぜ先輩は、そんなにエルフと俺らニンゲンを繋ぎたいんですか?」と聞いてきた。
こう返してやったよ。「小さい頃出会ったエルフに、恩返しをしたいからだ」と。
潤……今でも名前を呼ぶと会いたくなる。
もし俺の壮大な野望が叶ったら、政治家をやめて潤を守ることに徹底する。
俺は半エルフとはいえ魔法などはまだまだ使えない。
いつか…完全なエルフになったら魔法をどんどん覚え、やっていた剣術を上手く使い、潤の身を守る術を身につける。
……これこそが、本当の俺の夢なのかもしれないな……
潤side
翔くんと離れ離れになって25年…
前の新聞で、政治家の翔くんが写真で写っていた。
ボクはこの時、つい涙が出た。
立派な大人に成長した翔くんが見れたこと、自分の願いを叶えるために必死に頑張っていること。
有言実行…ってやつ?
それに噂では、かなり賛成派が増えていっているようだ!
エルフの森では、それぞれの村の村長が集まり、ニンゲンと繋がり合うべきか、繋がり合わないべきか、という議論が行われた。
その結果…「ニンゲンと互いを認め合い、繋がり合おう」という結果になった。
ボクは、号泣してしまった。もちろん嬉し涙だ。
でも……問題は…ニンゲン側。
王様は翔くんの意見に反対してるというし…説得させることができるのかな?」
なんで、あの王様はエルフと繋がり合おうとしないのかな?
翔くん、頑張って!応援してるからね!
翔side
ついに…ついに今日、王様の所へ行く時が来た。
これまでは長かった、世間に振り回されたり、家族と話し合ったり、裁判沙汰になりかけたり。
でも智くんに、雅紀に、ニノに、潤に会うためならば痛くも痒くもなかった。
そしてこの大舞台。俺が話すことで王様を説得させることができれば、これからのエルフとニンゲンの関係、繋がりが変わる。
絶対に、ヘマを犯してはならない。
大丈夫、俺には潤も智くんもニノも雅紀も、ニンゲンの皆さんという強い味方がいる。
叶えてみせる、俺の野望を!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!