だめだ
こいつ
なに考えてるかほんとにわかんない
さっきからニジョウは
私を膝の上にかかえたまま下ろそうともしない
私が勝手におりようとすると
腰に回された手にグッと力が入る
…なんなの
意味がわからない
何でこんなやつなんかに
…なんではこっちの台詞だ
私はただのおもちゃ。
名前なんて知って、どうするっていうの
お遊びに私の名前なんて
必要ないだろうに
…まぁ、しつこく聞いてくるくらいなら
適当に作って流してしまえばいいか
あっけらかんとニジョウが放つ言葉に
思わず驚きの声が口から漏れる
…こんなにあっさり引き下がるものなの?
…そりゃあ、聞いたからには
それなりに答えが返ってこないと不服でしょうが
さっき少し笑ったときとは別人のような
鋭く冷たい眼差しは私を少しとらえた後
すぐにフロントガラスの方へ移されてしまう
自分の心を読まれたような発言に
一瞬びくりとしてしまう
え、まってまって
何?
鎖をはずす?
なに考えてるのこの人
おもちゃなんて繋がれてる方が
扱いやすいに決まってるのに
この人の思考が読めない
明らかに動揺して、
鎖をはずそうとしたニジョウの手を止めると
不服そうな顔でこちらを睨まれる
しばらくの間、お互いの視線がぶつかる
先に目をそらしたのはニジョウの方だった
視線を鎖に繋がれた私の手足に戻し
鎖を外しにかかる
わたしを"買った"の
─
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。