「53万!」
「58万!」
さっきから、今もずっと
巨額な値段を叫ぶ声が
大きなホールに響いて
耳の奥にこだまする
そうか、私は売られるのか
夜の……って
私は誰とも知らない男に体をまさぐられるのか
別に今はどうだっていい
ただ、早く寝たい
早く、思考も停止して
何も考えなくていい
深い、深い眠りに落ちたい
突如響いたその声は
今までただ耳の奥でざわざわ鳴る声ではなく
はっきりとした輪郭を持って
私の耳に響いてきた
「1000万だと!?!」
「誰だ、どこのやつだ」
は……?
なんかもう1人出てきたぞ
人身売買とか
どんな値段がつけられるかなんて
知らないけど
こんなの、次元を超えた額だ
その証拠に
その場にいる全員
声を発した2人に圧倒されている
何を言ってんだ
こいつらは
信じられないくらいに
あたしの値段が跳ね上がっていく
「なんなんだよ……あいつら……」
あの2人を奇妙に思ったのか
どこからとなく戸惑いの声が聞こえてくる
「知らねぇのか
二條 龍桜(ニジョウ リオ)
鷹飛咲 渚月(タカヒザキ ナヅキ)
時々こういうとこに顔出して
いいヤツを高値で買ってく奴らだよ」
ふーん
そうか
あいつらから見たらわたしは
いいヤツに見えてるんだ
どうせ身体がイイとかそういうことだろう
本当に良い奴なら
こんな所にいるはずないしな
今も値段を叫び続ける2人を交互に見る
なんだっけ
タカヒザキ……だっけ?
あいつの方がなんか穏やかな感じがする
……どうせならあいつの方がいいな
……あ、ダメだこりゃ
私の願いも虚しく
ニジョウと言う奴が発したその値段以降
張り合うもう1人の声が聞こえてこない
会場はしんと静まり返った
「おぉーっと!ここで出ました!1億!!
これ以上はありませんか???ありませんねぇ??
では!102番!二條様1億で落札!!!!」
結局ニジョウとかいう
目つきの悪い方に買われるんだな
私は
私はピエロに鎖を引かれ
その鎖がステージに上がってきた
ニジョウとかいうやつに手渡される
そう言って鎖と引き換えに
おもそうなケースをピエロに手渡す
「は~いはい!確かに!!
では!!次の商品、行ってみましょう!!!」
前を歩くそいつの持つ鎖が
ジャラジャラと音を立てる
ああ、ほんと最悪
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。