第59話

ほころびのあと
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2019/03/05 14:18
事務所に用事があり立ち寄ったのはいいが、
ついつい話し込んでしまい、
辺りはすっかり暗くなっていた。

急いで帰路につく。
マナーモードにしたスマホを確認すると、
恐ろしい量の通知。


すっかり忘れていた。

自分の「彼氏」の束縛が酷いことに。


LINEはすぐ見て返信しないと怒られる。
電話は3コール目までにでなきゃいけない。
他の人とも連絡は最小限にする。
(トーク内容は1日に1回は確認される) etc...


まぁ普通ではない。




きっと帰ったら怒られるんだろう。
そんな事を考えながら、
歩くスピードをあげた。


その時。


ふっと目の前が暗くなり、
眠気が襲われる。

必死の抵抗も虚しく、
そのまま意識を失った。



最後に見えたのは、
悲しそうな誰かの顔。
??
やっと、みつけた…









ふっと、目が覚める。

身体を起こし辺りを見渡すと、
見覚えのない一室だった。


少し頭は痛むものの、
そこまで酷い訳でもない。



一旦ここから脱出しようと、
立ち上がった時。


自分の体の異変に気付いた。

四肢に繋がれた、無機質なモノ。

言葉が出てこない。



とりあえず冷静になり、
どこまで歩けるのか
確認することにした。



その時。





唯一の出口だったドアが
ゆっくりと開いた。






開いたドアの先に居たのは…











大好きな''彼''だった。








「どう、して」


震えが止まらない。

今まで、
少し束縛が強いくらいだったのに。


それ以外、
他の人となんら変わりなかったのに。



喋れずに立ち竦んでいると、
''彼''は此方へ歩み寄り
震える俺を抱き締めた。





『どうして?聞きたいのはこっちだよ
どうして他の人のトコに行こうとするの…?
俺の事、嫌いになった???』



「そんなわけ…」



『でももういいよ。
いくら俺の事を君が嫌っても、
俺が君の事を嫌いになることはないから。
だから、ずっと一緒にココで暮らそう?
そして、もう一度俺のこと好きになって?』















俺に残されたのは、絶望だけだった。


何を間違えたのか。
どうすればこうならなかったのか。



今はもう、わからない。




考えることをやめ、

降り注ぐキスの雨を

ただひたすらに受け止めた。



















『ねぇ、愛してるよ』

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