第14話

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2023/01/11 00:11

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 「ち、違います! 私はタイムカプセルが、その、タイムカプセルが……」
 「タイムカプセルが?」
 「開けられないままじゃ、可哀想だからです!」

 雛子の必死に捻り出した答えに、拓海はクスッと笑う。

 「ニコちゃんはいつも言うよね。僕じゃなくてこの無機質な箱が可哀想だって。なんか嫉妬するな」
 「嫉妬? 箱に?」
 「ニコちゃんにとって、僕とただの箱どっちが可哀想なのかな?」
 「本当にただの箱だって思ってます?」
 「え?」
 「本当は、10年も経てばタイムカプセルにも心臓ぐらい生えるって思ってるんじゃないんですか? 怖くて開けられないくせに、ただの箱だとか言わないでください」
 「……ラブなの?」
 「は?」
 「箱にラブしてるんだ」
 「……無機質な箱にラブはしません」
 「今! 言ってたことと矛盾してる! 矛盾してるよ! J K!」
 「そうやって誤魔化さないで向き合ってくださいよ。弱虫!」
 「よ、よわ……言ったね。じゃあ受けて立つよ。アプデ! でもまあ、その下手くそなフルートじゃ、僕を一生、キルできないけどね!」
 「練習すればすぐですから!」
 「10年」
 と拓海が両手を広げた。
 「彼女はフルート10年間続けてきたんだ。さて、いつタイムカプセル渡してくれるのかな?」
 意地悪な表情を浮かべて、拓海は雛子へと笑いかけた。
 「……フルートは諦めましょう。他の上書きから攻略しましょう! うん、それがいいです」
 と雛子はフルートを箱へとしまい、スマホの箱に入った10年前の拓海の画像をスクロールした。





 学校から最寄りの商店街の中にあるクレープ店に入る。この店は拓海と日生椿の写真に映る店だ。日曜日ということもあり、同級生らしき人はいない。その代わり、地元の子たちらしき女子の集団がクレープ店の前でたむろっていた。

 「僕はバターシュガーしか食べない」

 と拓海にクレープのリクエストをされると同時に軍資金を受け取る。アイロンをかけたようにピンと張った万札を店員に差し出した。

 店先に用意された4人がけのベンチに腰掛けている拓海へとクレープを渡す。温かなクレープはバターの甘い香りを放っている。アイスティーを吸いながら、クレープをかじる拓海へとスマホを向ける。

 「はーい撮りますよー」

 と長方形の中に拓海と雛子を入れる。画面の数字が減っていき、パシャリと音がする。撮影された画像を見ようとスマホの中を覗き込んだ。前髪で顔が隠れたおじさんと、能で出てくる女のお面みたいな冷たい表情の雛子が写っている。
 この際、美少女と張り合うことは諦めた。とにかくモブなりに拓海の隣の穴を埋める役に徹しよう、と、雛子はスマホの中の画像を見て固く誓いを立てる。

 「ま、こんなもんですかね」と、拓海にささっと見せた後、スマホをスカートのポケットにしまう。
 「こんなんで“思い出のレイヤー”は重ねられるもん?」
 「アングルもここだし、ちゃんと彼女と同じアイスティーを頼みましたし。というかクレープなんで一個なんですか?」

 人間の再現度は諦めたので、せめて小道具ぐらいは写真と一緒にしようと、同じセットを購入した。

「え? 半分こでしょ。お茶もクレープも。恋人同士だし」

と、当然のように拓海が答えた。

 「あ……そうでした」と大事なことを思い出して赤面する。
 「ニコちゃんも半分こする?」

 拓海は当然のように食べかけのクレープを雛子の方へと差し出した。それを両手で拒否する。

 「い、いりません! か、彼氏じゃないですし!」
 「あー。クレープを両端から齧ってる写真とかなかったかな?」
 「ありません! あってもやりません!」
 「ちえっ。残念だ」
 
 と、クレープを再び自分の方へと引き寄せてパクリと食べる。クレープに破顔する拓海を横目で見つつ、人の往来がある商店街の景色を眺めた。10年前も変わらずにある景色の中で、拓海と日生椿は一緒にいたのだ。このベンチに座って、笑い合いながらクレープを齧ってた。


 「10年後もあるかな」

 と雛子はボソリとつぶやいた。

 「……流石にタピオカのブームは去ってるだろうね」

 と、クレープを口いっぱいに頬張りながら拓海が答えた。そんな拓海の答えにクスッと笑う。

 「別にタピオカ好きじゃないです」
 「J Kといったら放課後、友人とタピオカでしょ?」
 「しませんよ。学校帰りにタピオカ食べる友達なんかいないんで」
 
 とストローを吸った。
 
 「あ……ふむ……」
 
 と、拓海が何かを言いかけて、黙り込む。高校時代リア充だった拓海には、放課後、誰かと遊ぶことなく直帰するJ Kの気持ちを汲み取るのは難しいんだろう。

 「いま、クラスメイトのインスタにいいね押しまくってるのに、友達すらいないのかよ、寂しい人生送ってるな! って思いました?」
 「やけに説明的だな」
 「どうせリア友いませんので」
 「いーんじゃない? 大人になると仕事上、クソムカつくやつとも笑顔でおしゃべりしなくちゃならない時あるけどさー。友達になりたい奴は、もっと自由に選べるようになるから。無理して狭い世界で自分の仲間を作る必要ないでしょ」
 「……おじさん、たまにはいいこと言いますね」
 「って絶賛、お友達0人、無職のおじさんが語ってみましたー!」
 「一気に説得力がゼロになりましたね」
 「つまり高校の時仲良くても大人になっても、ずーっとこの先も一緒てわけじゃないってこと。僕がその証拠だよ!」

 というと、拓海は雛子の飲み掛けのアイスティーをパッと奪い取った。そのまま、ずーっと音を立てて飲み干してしまう。それでも足りなかったのか蓋を外して、氷を口の中に放り込んだ。

 「いるじゃないですか、お友達。少なくとも0ではないですよ」
 「ともひゃち(友達)ひょこ(どこ)?」
 
 と氷で頬をいっぱいに膨らませたまま、拓海が言う。

 「あー。ニコヒャン(ニコちゃん)!」
 
 と雛子を指差した。
 
 「ち、ちがいます! 加賀美先生ですよ」
 「……っごくん。あいつは、クソムカつく奴だから。友達じゃない」
 「入院費払ったの加賀美先生ですよね」
 「どうしてそれを!」
 「踏み倒さないで払いましょうね。友達なら」

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