「久保田さんは……好きな人とか彼氏とかいるの?」
突然のことで、私はすぐに答えられなかった。
「あ、別に答えたくなかったらいいんだけど……」
そのことで、少し気を使わせてしまう。
でも……今は一番触れて欲しくなかったことだったのに。
* * *
遡ること、3週間前。
「せ、先輩……」
私は密かに想いを寄せていたサッカー部の先輩を放課後に呼び出した。
「久保田さんだっけ?どうしたの?」
何度か委員会でも一緒になって作業をしたり、探し物をしていた私を助けてくれたり。
そんなことから、私は先輩を好きになった。
そして……5ヶ月の想いを先輩に伝えることにした。
「私、先輩のことが……好きです。私と付き合ってくれませんか。」
私は勇気を振り絞って、想いを伝えた。
詰まりそうになる言葉を一生懸命に。
でも……
「ごめん。久保田さんとは付き合えない。」
先輩の答えは私の心を締め付けた。
「そ、そうですよね。すみません。」
私はそう言って、その場を駆け出した。
走って走って……気がつけば家に帰っていたのだ。
私は部屋で声を必死に押し殺して泣いた。
* * *
それから、私は先輩のことを避け続け、今に至る。
このことを話すべきか迷ったが、いつまでもクヨクヨしていてはならない。
私は先輩への恋を吹っ切れるように、一歩踏み出す気持ちで高瀬先生に話した。
「そうだったんだ。なんか……辛いこと思い出させちゃってごめんね。」
高瀬先生は私に頭を下げた。
「初めて自分が教卓側に立って、どうしたら生徒とこの二週間仲良くなれるかいっぱい考えたんだ。そしたら、青春だし、やっぱり恋愛の話とか特に女の子は盛り上がるのかなとか考えてて。無神経に聞いて、本当に悪かった。ごめん。」
「だ、大丈夫ですよ。」
教育実習生は教育実習生で、新しい環境で一時的に過ごすわけだから、たくさんの試練があるんだ。
「久保田さんはすごくいい子だから……きっと、久保田さんのことを分かってくれる人がいるよ。」
「……ありがとうございます。」
私は高瀬先生に話して、少し気持ちが軽くなった気がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。