第145話

Episode.143
1,241
2023/06/30 14:00





私の言葉を遮るように放たれたジョージの言葉。
その言葉に、思わず眉を顰め「え?」と聞き返す。
あなた・アルース
どうして、急にそんなこと
急すぎる答えの分かりきった質問。今は皆にとっても重要な話をしていたところなのに、ジョージがそんな事を聞いてくる理由が私には分からなかった。

だが、『どうなんだ?』と言いたげなジョージの視線が刺さり、私は戸惑いながらもその問いに答えた。
あなた・アルース
えぇ…みんなのことは大好きよ
当たり前でしょ?
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
そうか、良かった ((ニコッ
私からの返事を聞くと、ジョージは優しげな笑みを零した。そして「じゃあ…」と再び直ぐに質問を重ねた。
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
例えば、フレッドでも…グレンジャーでも
俺達の誰かが危険な目にあった時
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
姫ならどうする?
ジョージの質問に、私は先程よりも強く顔を顰めた。
さっきから、ジョージは何故そんな事を聞いてくるのか

それに、この質問と私が死喰い人になる事になんの関係があるのだろうか…ジョージの意図も分からぬまま、再び質問に答える。
あなた・アルース
どうしてそんな事聞くの?
もちろん、助けるに決まってるじゃない!
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
…"自分の命"が危なくなってもか?
あなた・アルース
えぇ、そうよ!当たり前でしょ?
皆を助けられるなら、私の命くらいッ…
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
それだ。それが、俺とフレッドが…
姫の作戦に反対する理由だ
真っ直ぐ瞳を見つめられ、強く言葉を遮られる。
優しさの中に、どこか鋭さを含むジョージの声に私は聞き返すことも無く、ただ口を噤んだ。

"反対する理由だ"そうハッキリ言われても尚、私には何がダメなのかが分からなかった。今、私は変な事を言ったのだろうか…ごく普通の当たり前の事しか…

私がそんな事を思っているのを察したかのように、ジョージは1度私から視線を外すと、小さく溜息を零した。そして、ジョージの白く染った息が空気中に消えるよりも早く言葉を重ねた。
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
姫は充分強いし、優しい、それに勇敢だ
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
だけど、勇敢すぎるせいか…優しすぎるせいか…自分の事を大切にしようとしない
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
姫ならきっと、奴らの中に簡単に紛れ込める…だけど、もし奴らに"俺らのうちの誰かを殺せ"と命令されたら?
あなた・アルース
………
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
姫なら多分、俺らを守る為に…どうにか策を練って、それで、最悪の場合…皆を守るために…って自分の命を差し出すだろ?
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
フレッドも俺も…
それがわかってたから止めたんだ
私が言葉を返す暇もなく、ジョージは話し続けた。
いや、例えジョージが言葉に詰まったとしても、私は何も言えなかっただろう。

ジョージの口から出る言葉は、全て私を見透かしていて
私が取るであろう行動そのものだった。

決して私を責めるような言葉も、視線もない。
だけど、ジョージから向けられる言動が視線が…心を鋭く突き刺した。私は堪らずジョージから目を逸らす。

すぐ隣から、「なぁ、姫…」と優しく私を呼ぶ声と共に温かさの残る大きな手が、私の冷たい手を握った。
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
俺らは、姫が居なくなるなんて…
考えたくもないんだ
あなた・アルース
いなくなるわけじゃッ…
否定しようとジョージの方を振り向けば、僅かに悲しげな彼の瞳の中に私の姿が映った。
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
でも、そういう選択をするだろ…?
『そうならないようにするわ、大丈夫』と安心させる為の嘘もつけた。だけど、きっとジョージはそんな嘘は簡単に見透かしてしまう。

そう思ったら、それ以上私の口から声は出なかった。
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
今の俺達じゃ…姫の言う通り
彼奴らには勝てない
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
それでも、戦う為に訓練してるんだ
今はダメでも、きっと強くなる
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
皆で助け合って、守り合えばいい
姫だけが危険な事をする必要は無い
私の手を握るジョージの力が微かに強まる。

「心配しなくても、俺達なら大丈夫さ」と言う声に、私は落としていた目線を上げ、ジョージと目を合わせた。

フレッドと似ているが、やはり違うジョージの瞳。
その瞳には、彼とは違うジョージなりの優しさと頼もしさが浮かんでいて、見つめ続ける程何だか安心できた。
あなた・アルース
………
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
騎士団だってそうさ。あんなに強い魔法使い達なんて…そうそういないぜ?
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
父さんだって、今回は少し気を抜いてただけで…本当なら結構強いんだ
そう言ったジョージは、私を見つめながら優しく笑った。アーサーさんの怪我は、ジョージだって酷く心配していたし、不安がっていた。

だけど、今目の前にいるジョージはそんな事が無かったかのように明るく振舞っていた。でも不思議と無理をして嘘を言ってるようには見えなくて「聖マンゴじゃ、母さんと治療の方法で揉めてたんだ」なんて続けられた言葉に、私は思わず笑ってしまった。

笑みを零す私を見たジョージが、どこが安心したように優しく微笑み、再び私の手を少しだけ強く握った。
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
姫がどうしてもって言うなら…
きっと何を言っても聞かないだろうから
もう止めはしない
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
だけど、考え直してくれるなら…
死喰い人にはならないでくれ
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
例え、俺らを守ってくれる為であっても
そんな方法で一方的に守って貰う事なんて望んでない…もちろん、フレッドだってな
私のことを見つめたまま、先程よりも少し重たい口調でジョージはそう言った。僅かな風の音だけが私達のことを包み込み、木々に降り積もった雪が、風に舞い上げられ、時が進んでいるのを表すように静かに落ちていく。

少しばかりの沈黙の後、私の手を握っているジョージの手の甲に重ねるように、私はもう一方の少し冷えた手でジョージの手を握った。
あなた・アルース
お父様に反抗の手紙を出さないとね
吠えメールがいいかな?
そう言って、私が少し微笑むとジョージの表情はあからさまに明るくなった。上がりきった彼の口角に釣られるように、ふふっ…と笑い声が漏れる。
あなた・アルース
自分の事をわかってなかったのは…
やっぱり私の方だったわね
あなた・アルース
フレッドに酷い事言っちゃった、、
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
その事なら心配ないさ、あれは相棒の言い方にだって問題がある。姫は悪くない
あなた・アルース
優しいわね、ジョージ…((ニコッ
ありがとう、あなたがいてくれなかったら、きっとまた…私は間違った方にッ…
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
間違いなんかじゃないさ
散々悩んでくれたんだろ?みんなの為に
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
色んな選択肢があるんだ…姫が悩んで出した答えなら、それもある意味じゃ正解だ。今回はたまたま俺らで考えた選択肢を選んだだけさ
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
自分の事を責めるのも、姫の良くないところだな。もっと自分に甘くていいんじゃないか?
ジョージはそう言うと、私の赤く染っているであろう鼻先に軽く触れ、悪戯に笑った。抱いていた罪悪感と重たく複雑な感情が、ジョージのその行動だけでまるで呪文でもかけられたかのように、ほんの少し軽くなる。
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
それに、仮に姫が死喰い人になったとしたら…フレッドのやつきっとストレスで禿げちまうだろ?そんなのを隣で見届ける勇気は、俺にはまだ無いからな 笑
そう言って、心底嫌そうな表情をふざけ混じりに浮かべると、ジョージは近くにあった枝で雪の積もった地面に
何やら変な絵を描き出した。
あなた・アルース
ふっ…これ誰?
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
髪が無くなったフレッドさ 笑
あなた・アルース
これがフレッド?笑
地面には、しょんぼりとした表情の丸に手足が生えた何とも可笑しい絵が描かれていて「そっくりだろ?」とそう言うジョージに、私は堪らず笑い声を上げた。

静かだった公園に、私の楽しげな笑い声とジョージの暖かな笑い声が響く。まるで、さっきまでの重く暗い会話が無かったかの様に、その空間は平穏そのものだった。
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
フレッドがこうならなくて良かったよ 笑
あなた・アルース
…ジョージのおかげよ、ありがとう ((ニコッ
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
ッ…別に俺は、何もしてないさ…((ニコッ
あなた・アルース
こういう時は謙虚なのね…笑
あぁ、それと…ごめんなさい、ジョージ
あなた・アルース
あなたにも酷い事を言ったわ
2人の悪戯を下らないなんて、本当は1度も…
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
あぁ、その事なら気にしてない
多分、フレッドもな
私が謝罪をいい切る前に、ジョージはなんて事ない様子で笑みを浮かべながらそう言った。怒鳴られるとは思っていなかったが、予想外の反応に私は少し困惑する。
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
気にしてると思ったのか?笑
あなた・アルース
だって、悪戯はあなた達にとって…
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
確かに、他のやつに"下らない"なんて言われたら、一生実験台にするか、食べ物に発熱ヌガーを混ぜるかもしれないな 笑
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
でも、姫はそんな事思わないって
俺もフレッドも、もうとっくに気付いてる
だから、気になんてしてないさ
あなた・アルース
…あなた達って、私より私に詳しいわね
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
当たり前だろ?ずっと見てッ
…ずっと、一緒にいたからな ((ニコッ
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
さ、今頃フレッドのせいで
部屋に湖が出来てる頃だ
ジョージは、まるで何かを誤魔化すように少しだけ声を張るとベンチから立ち上がり、私に手を差し出した。

その手を掴み、私もベンチから立ち上がる。
あなた・アルース
フレッドに、ちゃんと謝らないと…
仲直り出来るわよね…?
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
あぁ、きっと姫が部屋に入った瞬間、泣きながら抱きついて来るだろうさ 笑
ジョージ・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
さぁ、ロニー坊やが相棒の涙で溺れる前に戻ってやろう
ジョージはそう言って少しだけ笑みを零すと、直ぐに私から視線を逸らした。そして、半歩だけ早く私の前を歩いた。

一緒にいる時は、いつも隣を歩いてもらっていたからかその光景にほんの少し違和感を感じながらも、大きな背を追うように、私も足を進めた。

白い雪景色の中にある、ジョージの赤く染った耳が…
やけに目立っていた気がした。





















プリ小説オーディオドラマ