私の言葉を遮るように放たれたジョージの言葉。
その言葉に、思わず眉を顰め「え?」と聞き返す。
急すぎる答えの分かりきった質問。今は皆にとっても重要な話をしていたところなのに、ジョージがそんな事を聞いてくる理由が私には分からなかった。
だが、『どうなんだ?』と言いたげなジョージの視線が刺さり、私は戸惑いながらもその問いに答えた。
私からの返事を聞くと、ジョージは優しげな笑みを零した。そして「じゃあ…」と再び直ぐに質問を重ねた。
ジョージの質問に、私は先程よりも強く顔を顰めた。
さっきから、ジョージは何故そんな事を聞いてくるのか
それに、この質問と私が死喰い人になる事になんの関係があるのだろうか…ジョージの意図も分からぬまま、再び質問に答える。
真っ直ぐ瞳を見つめられ、強く言葉を遮られる。
優しさの中に、どこか鋭さを含むジョージの声に私は聞き返すことも無く、ただ口を噤んだ。
"反対する理由だ"そうハッキリ言われても尚、私には何がダメなのかが分からなかった。今、私は変な事を言ったのだろうか…ごく普通の当たり前の事しか…
私がそんな事を思っているのを察したかのように、ジョージは1度私から視線を外すと、小さく溜息を零した。そして、ジョージの白く染った息が空気中に消えるよりも早く言葉を重ねた。
私が言葉を返す暇もなく、ジョージは話し続けた。
いや、例えジョージが言葉に詰まったとしても、私は何も言えなかっただろう。
ジョージの口から出る言葉は、全て私を見透かしていて
私が取るであろう行動そのものだった。
決して私を責めるような言葉も、視線もない。
だけど、ジョージから向けられる言動が視線が…心を鋭く突き刺した。私は堪らずジョージから目を逸らす。
すぐ隣から、「なぁ、姫…」と優しく私を呼ぶ声と共に温かさの残る大きな手が、私の冷たい手を握った。
否定しようとジョージの方を振り向けば、僅かに悲しげな彼の瞳の中に私の姿が映った。
『そうならないようにするわ、大丈夫』と安心させる為の嘘もつけた。だけど、きっとジョージはそんな嘘は簡単に見透かしてしまう。
そう思ったら、それ以上私の口から声は出なかった。
私の手を握るジョージの力が微かに強まる。
「心配しなくても、俺達なら大丈夫さ」と言う声に、私は落としていた目線を上げ、ジョージと目を合わせた。
フレッドと似ているが、やはり違うジョージの瞳。
その瞳には、彼とは違うジョージなりの優しさと頼もしさが浮かんでいて、見つめ続ける程何だか安心できた。
そう言ったジョージは、私を見つめながら優しく笑った。アーサーさんの怪我は、ジョージだって酷く心配していたし、不安がっていた。
だけど、今目の前にいるジョージはそんな事が無かったかのように明るく振舞っていた。でも不思議と無理をして嘘を言ってるようには見えなくて「聖マンゴじゃ、母さんと治療の方法で揉めてたんだ」なんて続けられた言葉に、私は思わず笑ってしまった。
笑みを零す私を見たジョージが、どこが安心したように優しく微笑み、再び私の手を少しだけ強く握った。
私のことを見つめたまま、先程よりも少し重たい口調でジョージはそう言った。僅かな風の音だけが私達のことを包み込み、木々に降り積もった雪が、風に舞い上げられ、時が進んでいるのを表すように静かに落ちていく。
少しばかりの沈黙の後、私の手を握っているジョージの手の甲に重ねるように、私はもう一方の少し冷えた手でジョージの手を握った。
そう言って、私が少し微笑むとジョージの表情はあからさまに明るくなった。上がりきった彼の口角に釣られるように、ふふっ…と笑い声が漏れる。
ジョージはそう言うと、私の赤く染っているであろう鼻先に軽く触れ、悪戯に笑った。抱いていた罪悪感と重たく複雑な感情が、ジョージのその行動だけでまるで呪文でもかけられたかのように、ほんの少し軽くなる。
そう言って、心底嫌そうな表情をふざけ混じりに浮かべると、ジョージは近くにあった枝で雪の積もった地面に
何やら変な絵を描き出した。
地面には、しょんぼりとした表情の丸に手足が生えた何とも可笑しい絵が描かれていて「そっくりだろ?」とそう言うジョージに、私は堪らず笑い声を上げた。
静かだった公園に、私の楽しげな笑い声とジョージの暖かな笑い声が響く。まるで、さっきまでの重く暗い会話が無かったかの様に、その空間は平穏そのものだった。
私が謝罪をいい切る前に、ジョージはなんて事ない様子で笑みを浮かべながらそう言った。怒鳴られるとは思っていなかったが、予想外の反応に私は少し困惑する。
ジョージは、まるで何かを誤魔化すように少しだけ声を張るとベンチから立ち上がり、私に手を差し出した。
その手を掴み、私もベンチから立ち上がる。
ジョージはそう言って少しだけ笑みを零すと、直ぐに私から視線を逸らした。そして、半歩だけ早く私の前を歩いた。
一緒にいる時は、いつも隣を歩いてもらっていたからかその光景にほんの少し違和感を感じながらも、大きな背を追うように、私も足を進めた。
白い雪景色の中にある、ジョージの赤く染った耳が…
やけに目立っていた気がした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。