「はー疲れた!」って、深澤がわざとらしく首をコキコキ鳴らす。
「お疲れ様」ってあなたがコーヒーを出して、「サンキュ」って深澤が受け取る。
それだけでムッとしてしまう俺は、心が狭いのか。
それに気付いたのか、あなたは俺にもラテを出してくれる。
「はい、蓮さんも」
「おっ、おお…」
「あーっ!社長と俺のと違う!差別だ!」
「差別じゃなくて区別!深澤くん甘いの苦手でしょ」
ムカ。
何だよそれ。
急に元カノ感出してくんなよ。
「俺も社長とお揃いがいいー!」
「お前なんかブラックで十分だ!」
ブーブー言う深澤と喧嘩腰の俺に、あなたが呆れた顔をする。
「先輩、私は紅茶でお願いしまっす!」
「はいはい、わかってますよー」
「キャー!マリアージュフレール!素敵!」
「頂きものだけどね」
「ひえー、さすが社長夫人!」
テンションのやたら高いハルのお陰で、場の雰囲気が何とか保たれてる。
何やってんだろ、俺。
子供か。
反省していたら、ハルがニコニコしながら聞いてきた。
「で、どこ行くんですか?今日のディナー」
「俺の友達の店。パーティーの相談も兼ねて」
「俺達またこき使われるんですか!?」
「人聞き悪いな。協力してくれって頼んでんじゃねえかよ」
「へえへえ、協力しますよ。
社長命令には背く訳にいきませんからねえ」
「ハイハイハイッ!私席次表とか作りますよ!
こないだ可愛いフォーマットを見付けちゃってえ」
「そうなの!?ハルちゃんってば頼りになるう!」
「先輩のためならエンヤコラですよっ」
あなたの後輩のハルはあなたにやたら懐いていて、あなたが何をするんでも尻尾を振って喜んでついてくるような奴。
対して深澤は、嫌そうにしてるけど。
本当は俺らの結婚を祝ってくれてる。
あなたの幸せを、誰よりも望んでいる男だから。
あなたの元彼だっていうのが引っかからない訳ではない。
出来ればあなたに近付けたくないとも思う。
でも、悔しいことに。
今の俺達があるのは、こいつのお陰でもある。
深澤は本当にキレ者で、札幌支社に飛ばした前の人事部長をクビにしたいぐらいだ。
秘書業務はもちろん完璧だし、とにかく気が利いて、俺のスケジュールが過密にならないように他の上役に掛け合って調整してくれてる。
秘書にしておくのは勿体無い。
ゆくゆくは経営に携わらせたいと思ってる。
それほどの男だ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!