前の話
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「〜〜って〜〜さんのことが好きなんだって!!!」
そんな話題を突然に持ちかけてきたのは意外なことに松風天馬だった。
そういうことに興味が無いと思っていた…が周りもそう思っていたようで皆一様に驚いた表情を浮かべている。
「天馬でもそういう話題知ってるんだね〜!意外!」
馬鹿にしたようにケラケラ笑うのは松風天馬の幼馴染で俺達のマネージャーの空野葵だ。
いやお前らが付き合えやという冷ややかな視線を2人は気付いていないのだろう。
まるで周りがいないかのように仲良さげに口論を続けている。
「でも確かに最近そういう話題よく聞くよね〜」
「そうかもしれないですね!」
その口論を無視して口を開いたのは西園信助だった。
相槌を打つように影山輝が返事をする。
「………………………………」
この手の話題が苦手なのだろうか、剣城京介は黙り込んでいる。
しかしこの男も中学3年生に上がってから腹立たしいほどモテ始めている。ちくしょう。
ここで全員の痛いところをついてくるのが松風天馬だ。
全員一斉に黙り込む。
純粋無垢な目でそういう松風天馬であるが、おい、お前はどんだけくそ鈍感なんだ。
空野さんの顔を見ろ、お前確実に呪い殺されるぞ。
この話題に滅多に口を開かない剣城京介さえも賛同するほどこの男は凄いのだ。ある意味。
そういうところだよ………と全員が思ったが誰も口には出さない。
確かにそれはそうである。先日、バスケ部のマネージャーの学年で1.2を争うほどの美女に告白されたそうだが、その場で潔く振ったという噂も聞いた。何様だお前。
剣城真面目〜〜〜!!!と全員に笑われて少し顔を赤くする剣城京介。そういうところがギャップ萌え(?)だの紳士(?)だの言われて余計モテるのだろうか。分からん。分からんぞ女心。
ヤバい、見つかった。
至極単刀直入に聞かれたが、自分にも理由が分からないのだ。
それは図星である。
確かに俺は全くモテないわけではない。
それなりに告白はされてるし普通に可愛いなと思う女子も沢山いる。
ただいつも長続きしない。
1ヶ月ほどすると何故か振られてしまうのだ。
「本当に私のこと好きなの!?」とか本当にそんなこと言うんだ………と思うようなセリフを何度も吐かれてきた。
原因………正直言うと、無いことは無い。
しかしこれを認めてしまったら負けな気がする。
そう思いいつも気付かないふりをしている。
そう当たり障りの無い返事をする。
いつもこういう話題を振られたときにはこうやって切り抜けているのだが、俺のことを知り尽くしているサッカー部員にはどうやらこの手は通用しないようだ。
全員が薄ら笑いしながらこちらを見ている。
分かっているのに聞き返してしまう。
空野さんのニヤニヤがMAXを超える。
もはや恐怖を感じるほどのニヤケ具合である。
遂に名前を出されてしまった。
そう、俺は霧野蘭丸という"男"を忘れられずにいるのだ。
我ながら動揺していて逆に墓穴を掘っているのが分かる喋り方になっている。
どうしてこうも自分は分かりやすいのか。
これは馬鹿にされているのか???
しかし、霧野蘭丸は悔しいが俺が出会ってきた人間の中で1番綺麗なのである。
DFとしても優秀で、生意気な俺をすごく可愛がってくれた聖人である。
非の打ち所がない人間とはああいう人間をいうのだと思うほどだ。
空野さんが1歩踏み込んで来るように顔を近付けてくる。
またしてもニヤニヤして聞いてくる。
デリカシーというものがこの空間には存在しないようだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。