第14話

14話
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2021/01/09 09:54
あなた
あなた
はぁ…ほんとにしつこい…
獪岳
獪岳
久しぶりだなあなた
あなた
あなた
獪岳…久しぶり
獪岳
獪岳
まだ誘われてんだな
あなた
あなた
うん…いい加減殴りそうだよ
獪岳
獪岳
それはやめとけよ
あなた
あなた
我慢するけどね…
そうだ、昔話を聞かせてあげるよ、
もう、私たちが知り合って結構経つから
たまにはおとぎ話もいいでしょ?
獪岳
獪岳
おう、聞かせろ
むかしむかし、あるところに

裕福ではないけれど

とても幸せに暮らしている3人家族がいました。

近所でも、有名なほど仲のいい家族でした。

そんな家族もある日を境に崩壊してしまいます

その日は肌寒い月の綺麗な夜でした。

お父さんは、仕事で家を開けていて

女の子とお母さん2人だけでした。

夜、眠りについた頃

突然扉が開き、人喰い鬼が家の中に入ってきました

お母さんは女の子を起こし、

女の子を押し入れの中に隠し言いました

『お父さんが帰ってくるまででてきちゃだめよ
あなたをずっと愛しているわ』

女の子はひたすら待ちました。

お母さんの叫び声が脳内に焼き付いて

離れませんでした。

次の日の朝お父さんが帰ってきて

女の子は押し入れから飛び出し

お父さんに近づきました。

お父さんは女の子に言いました

『なんでお前が生き残ったんだお前が死ねばよかったのに』

女の子は謝りました。

ごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさい

いくら謝ってもお父さんは許してくれません

許すどころか暴力まで振るうようになりました

暴言も当たり前のように吐いてきます

『 早く死ねよ、でも自殺はするな 』

『 お前のことなんて、誰も好いちゃいない 』

『 早くこの世から消えろ 』

『 誰もお前を許さない 』

『お前は誰にも信用されてない』

『お前も、人を信じるなんて馬鹿なことやめろよ』

女の子はひたすら耐えました。

町に遊びに出ると街の子供には

『 人殺しだ 』

『 嘘つきが来た 』

『 神様の失敗作だ 』

『早く死んじゃえ』

と言われました。仲の良かった子にも言われました

当時10歳の女の子は

人を信用出来なくなりました。

人を信じることをやめ、頼ることをやめたのです

またとある日の夜

お母さんが死んだ時とおなじ 肌寒い月の綺麗な夜でした

女の子は悲鳴を聞き飛び起きました。

お父さんの悲鳴です。

隣の部屋を見るとお父さんが人喰い鬼に喰われていました

だけど女の子は何も感じません

鬼がお父さんを食べ終えた後

女の子を見つけました。だんだんと近づいてきて

やっと死ねると思った時

目の前の鬼は頸を斬られいなくなりました。

その時、3人の隊士に助けらた女の子は

泣きながら言いました。

『 なぜ助けたの? 』

3人の隊士は、女の子を引き取り一緒に生活をしました

女の子は立派な隊士になり、

父に言われた自殺をせず死ねる方法

すなわち自分より強い鬼を探し

殺してもらうために今も頑張っているそうです

女の子は『殺す』 『死ね』 と軽々しく

言う人がすごく嫌いです

所詮口だけで、実行しないからです。

今も女の子は死ねるよう努力しているそうです

めでたしめでたし
獪岳
獪岳
なぁ、お前はそれで辛くねぇのか
いつまでも信用できなくて
死にたいがために、頑張る
そんな生き方でいいのか
あなた
あなた
いいんだよ、早く死ねればそれで
獪岳
獪岳
じゃあなんでお前は泣いてんだ
その涙はなんだよ
あなた
あなた
泣いてなんか…な…い
頬に触れると涙が溢れていて
言われてようやく自覚したのか
視界が涙で歪み始めた
獪岳
獪岳
なぁ、あなた
お前本当は死ぬのが怖いんじゃないのか?
死にたいって言い聞かせてるけど
心の内では、生きたいって
思ってんじゃねぇの?
あなた
あなた
そんなわけない!
獪岳
獪岳
じゃあお前はなんで
鍛錬をする、稽古をするんだ!
対等な強さの鬼と戦い死にたい?
違うな、死にたくねぇから
強くなってんだよお前は!
あなた
あなた
獪岳に何がわかるの!
私はその場から逃げるために
脚に思いっきり力を入れた

パシッ

だけど逃げられなかった
獪岳に手を掴まれたから
獪岳
獪岳
逃げようとしてんじゃねぇよ
話終わってねぇだろうが
獪岳
獪岳
俺だって、先生の一番弟子でいたかった!
だけどあのカスが来てから全部変わった
先生はあのカスにばかり構うようになり
俺には構わなくなった!
誰かの1番になりてぇんだよ俺は!
あなた
あなた
お父さんはよく生き残ってくれたって
言ってくれると思った…
だけど…だけど暴力をふるって
母さんもお前を恨んでるって
あたしは一生許されないって言われて
あたしのせいでお母さんは死んだ…
全てあたしが悪いから!
私が人、鬼、自分が嫌いな理由

それは

私のせいでお母さんが死んだこと

仲の良かった子に、裏切られたこと

鬼のせいで…家族が壊れてしまったこと

お父さんに言われたことを

ずっと気にして、人に好かれることを嫌ったこと

人からの優しさを拒んだこと、

死ね、殺す、なんて言うくせに

行動に移さない

言葉の凶器は物理的なものよりも

もっと、痛い。心にできた傷は

目に見えなくてもずっと治らないから

そんなことを簡単に口にするヤツらが

大嫌いなんだ
あたしはその場から逃げた
獪岳
獪岳
先生、すみません、出来ませんでした。
桑島慈悟郎
桑島慈悟郎
いや、いいんじゃよ
それにしても獪岳、すまんかったな
そんなことを思っておったとは
獪岳
獪岳
いえ、もう大丈夫です
桑島慈悟郎
桑島慈悟郎
やはり、心を開かせるのは
難しいのかもしれんな、
獪岳
獪岳
あいつは、どうしたいんでしょうか
桑島慈悟郎
桑島慈悟郎
それは、わしらには分からない
けれど、ゆっくり、本当にゆっくり
あいつも成長しておる
もう少し、待ってやらんか
獪岳
獪岳
そうですね
桑島慈悟郎
桑島慈悟郎
帰るぞい

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