男子はサッカー、女子はハンドボールで体育の授業中。
いつもふんわりマイペースな望からは想像できないけど、案外スポーツもできるらしい。
どんな面を見ても思うけど、これは人気にならないわけがない。
そんなことを思っている私も、珍しくかっこいい彼を自然と目で追ってしまう。
私が彼に見とれていると、1人の女の子にぶつかってしまった。
よろけているその子の腕を掴み、なんとか転ばないように支える。
うっすらと頬を赤く染めた女の子はそう残し、友達のいる方へと走って行ってしまった。
私は靴を脱いで砂を出し、靴下を手で叩いた。なにか違和感を感じて足先の縫い目をよく見てみると――。
私はすぐに靴を履き直して見なかったことにした。
授業が終わって制服用の靴下に履き替えるまでの辛抱。それまで誰にもバレなければ大丈夫。
午前の授業は終わり、至福の昼休み。
もちろん、体育の授業後、私は誰にもバレずに靴下を履き替えることができた。
彼はうとうとしながらゆっくりと口を動かしてパンを食べる。
鈴城さんが注意してすぐに、彼は舟をこぎ始める。
そのまま倒れてしまいそうで、私は箸を置いて彼の体を支えた。そうすれば自然とこちらに寄りかかってきて、私はそのまま動けなくなってしまう。
彼は寝言のようにそう呟き、私の肩を枕にして意識を手放した。
近すぎる距離に鼓動は速くなり、今すぐにでも離れたい気持ちでいっぱいだ。
けど、幸せそうに眠る彼を起こしたくはない。
私は食べかけのお弁当箱を閉じ、一緒に眠ることにした。
彼と触れ合っている場所から温もりが伝わってきて、私はすんなりと夢の中へと沈んでいく。
また瞼を開けた時、私は雲の上にいた。
眠る前に感じていた温もりはそのままそこにあり、夢の中でも彼は私の肩を枕にして眠っていた。
いつか彼がしてくれたように、私はふわふわの髪をそっと撫でてみる。
細くて柔らかいサラサラの髪はとても触り心地が良く、いつまでも撫でていられそうだ。
夢だからと調子に乗った私に、ちょっとしたいたずら心が芽生えてしまう。
まさか夢の中で眠っている彼が反応を見せると思っていなくて、私は咄嗟に手を離した。
カシャッ! カシャッカシャッ!
前よりも騒がしい声とシャッター音が聞こえ、私は恐る恐る薄目を開ける。
前とは比べ物にならないほどの人だかりが目の前に広がっている。
近くにいる子の画面には、私と望が寄り添っている写真が写っていた。
ドキッ ドキッ ドキッ
友達、親友、それとも、あの写真のような恋人。
どれにあたるのか、自分がどの関係を望んでいるのか、わからない。
彼はまた寝ぼけているようで、私の肩にぐりぐりと頭を擦り付けてくる。
頭が冴えた望は夢かぁ、と残念そうに眉をひそめて起き上がる。
事実、私は望の前でもまだ表情が固いことの方が多い。
さっきまで速かった鼓動は落ち着きはじめ、少し気持ちがしぼんでしまう。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!