晴天で気持ちのいい朝、下駄箱を覗いてみるとそこには綺麗な上履きが置いてある。
いじめは止み、平和な日常を取り戻した今日、私は新たな問題にぶち当たっていた。
昨日の事件はあちこちで噂されていたが、どれも尾ひれのついたものばかりだった。
心の中でツッコミを入れ疲れていると、私も疑問に思っていた話が聞こえてくる。
望は確かに私を指して「好きな子」と言った。
けど、告白はされていないし、恋人になろうなんて話は一度もない。
そもそも、「好きな子」って友達としてかもしれない。
確かめたい。けど、確かめて気まずくなってしまうのも恐ろしい。
一難去ってまた一難。どうしたものか考えあぐね、教室のドアに手をかけようとした時――。
私は声にならない悲鳴を上げ、背後を振り返る。
朝から満足気な笑みを浮かべている望が、すぐ目の前に立っていた。
私はいつもの緊張で表情を全く変えられそうにないと悟ってしまう。
けど、今までと違うことが1つあった。
私は息を吐いてリラックスし、教室に入ろうと歩みを進める。
ゴツンッ!
全くリラックスなんてできていない。
まだ開けてもいない扉に突っ込み、廊下に盛大な音を鳴り響かせてしまった。
望は私の前髪を上げると、腫れていないか顔を近づけて確認し、優しい手つきで額を撫でる。
私は昨日のキスを思い出し、緊張が全身に巡って息が止まってしまいそうになった。
早く席に座ってしまおうと思ったけど、それでは今までと何も変わらない。
我に返って何を言えばいいか考えていると、望のニコニコと面白がっているような笑顔が視界に入る。
彼は私の腰に手を回して誘導しようとした。
けど、触れるだけで恥ずかしさが込み上げ、反射的に鞄を抱きしめて彼に対して身構えてしまう。
自分でもあんまりな反応だと思う。
けど、体は勝手に彼から離れようと動いた。
そんな様子の私に恐る恐る手を伸ばそうとする望。
しかし、それは鈴城さんによって止められる。
望は怒られた羊、ではなく、子犬のようにしょんぼりとしていた。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。