第12話

恥ずかしがり屋のいばら姫
986
2021/04/28 09:00


 晴天で気持ちのいい朝、下駄箱をのぞいてみるとそこには綺麗きれいな上履きが置いてある。

 いじめは止み、平和な日常を取り戻した今日、私は新たな問題にぶち当たっていた。

女子生徒1
昨日の1組の事件聞いた!?
女子生徒2
もちろん! 羊くんがいばら姫にキスして目を覚ませたってやつでしょ!?
ロマンチックだよねー
女子生徒1
そう! 王子様みたいにひざまずいてプロポーズしたんだって!
茨野 透花
茨野 透花
(確かに王子さまみたいだったけど、跪いてプロポーズはどう考えたって夢物語よ!!)
女子生徒2
えぇー? 私は、目を覚ましたいばら姫が愛の言葉をささやいたーって聞いたけど
茨野 透花
茨野 透花
(みんなの前で堂々と宣言みたいなものはしたわね。待って……、愛の言葉を囁くより恥ずかしいじゃない!!)
男子生徒1
なぁ、あの後いばら姫がお持ち帰りされたってマジ?
茨野 透花
茨野 透花
(そんなわけないでしょ!?
人でいかがわしいこと考えないでよ!)


 昨日の事件はあちこちで噂されていたが、どれも尾ひれのついたものばかりだった。

 心の中でツッコミを入れ疲れていると、私も疑問に思っていた話が聞こえてくる。

男子生徒2
てか、結局あの2人って付き合ってんの?
女子生徒1
知らなーい。けど付き合ってない方が不思議じゃない?
茨野 透花
茨野 透花
(え、そうなの?)


 望は確かに私を指して「好きな子」と言った。

 けど、告白はされていないし、恋人になろうなんて話は一度もない。

 そもそも、「好きな子」って友達としてかもしれない。

 確かめたい。けど、確かめて気まずくなってしまうのも恐ろしい。




 一難去ってまた一難。どうしたものか考えあぐね、教室のドアに手をかけようとした時――。

草飼 望
草飼 望
透花! おはよう
茨野 透花
茨野 透花
――っ!!?


 私は声にならない悲鳴を上げ、背後を振り返る。

 朝から満足気な笑みを浮かべている望が、すぐ目の前に立っていた。

 私はいつもの緊張きんちょうで表情を全く変えられそうにないと悟ってしまう。



 けど、今までと違うことが1つあった。

茨野 透花
茨野 透花
おぉ、お、お……おはよう
鈴城 夕凪
透花、ちゃん? 大丈夫?
桜庭 律
わかりやすく動揺してるな
茨野 透花
茨野 透花
……はぁ、大丈夫よ。なんでもないわ


 私は息を吐いてリラックスし、教室に入ろうと歩みを進める。




     ゴツンッ!



草飼 望
草飼 望
透花!?


 全くリラックスなんてできていない。

 まだ開けてもいない扉に突っ込み、廊下に盛大な音を鳴り響かせてしまった。

茨野 透花
茨野 透花
だ、大丈夫よ
草飼 望
草飼 望
大丈夫じゃないでしょ。
もう、どうしちゃったの?


 望は私の前髪を上げると、れていないか顔を近づけて確認し、優しい手つきで額を撫でる。

 私は昨日のキスを思い出し、緊張が全身に巡って息が止まってしまいそうになった。

茨野 透花
茨野 透花
(近過ぎよっ!!!!)


 早く席に座ってしまおうと思ったけど、それでは今までと何も変わらない。

 我に返って何を言えばいいか考えていると、望のニコニコと面白がっているような笑顔が視界に入る。

茨野 透花
茨野 透花
なんで笑っているの?
草飼 望
草飼 望
いいから、いいから。
もう席に座っちゃおうね


 彼は私の腰に手を回して誘導しようとした。

 けど、触れるだけで恥ずかしさが込み上げ、反射的にかばんを抱きしめて彼に対して身構えてしまう。

草飼 望
草飼 望
……え? 透花?


 自分でもあんまりな反応だと思う。

 けど、体は勝手に彼から離れようと動いた。


 そんな様子の私に恐る恐る手を伸ばそうとする望。

 しかし、それは鈴城すずしろさんによって止められる。

鈴城 夕凪
スト―ップ!
りつ、望を確保して
桜庭 律
任せろ
鈴城 夕凪
少し反省しなさい!
透花ちゃん、行こう
茨野 透花
茨野 透花
え? う、うん


 望は怒られた羊、ではなく、子犬のようにしょんぼりとしていた。

茨野 透花
茨野 透花
(可哀想なことしちゃった……。
けど、今の私はおかしすぎて
普段通りにできないわ)
茨野 透花
茨野 透花
(ごめんね、望)







プリ小説オーディオドラマ