鈴城さんに連れてこられたのは屋上だった。
確信しているような物言いは、私よりも現状を分かっているように感じる。
そう聞かれて記憶をさかのぼってみるけど、明確にいつからなのかはわからない。
睡眠仲間だと言い聞かせていた時期もあった。
けど、もしかしたら、それよりも前から恋に落ちていたのかもしれない。
鈴城さんは頬を赤く染め、恋する乙女の瞳をしている。
そんな彼女を見て私は息をのんでしまう。
ふてくされたように頬を膨らませる鈴城さんの可愛さに、私は笑みが零れてしまう。
そう尋ねてみると、鈴城さんは私をじーっと見つめて指をさす。
鈴城さんはうーん、と唸り、説明の仕方に悩んでいるようだった。
私も男の子と意識するとはなにか考えていると、「狼になっちゃうよ」という望の言葉を思い出す。
それだけで私は全身が熱くなり、変な想像をしてしまう。
外にいることも忘れ、恥ずかしさのあまり勢いで声を張り上げると、その言葉は空いっぱいに響き渡った。
そんな私を見て、鈴城さんは口を手で押さえて笑いをこらえている。
こんな風に女の子の友達とお話ができる日が来て、私は胸いっぱいの幸せを感じられた。
望への感謝の気持ちはなくならないけど、私は自分にも少し自信が持てた気がする。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!