第13話

初めての恋バナ
910
2021/05/05 09:00
鈴城 夕凪
ぶっちゃけ2人って両思いでしょ


 鈴城すずしろさんに連れてこられたのは屋上だった。

 確信しているような物言いは、私よりも現状を分かっているように感じる。

茨野 透花
茨野 透花
そう、よね?
鈴城 夕凪
少なくとも、透花ちゃんは望のこと好きだよね?
茨野 透花
茨野 透花
そ……そうね
鈴城 夕凪
やっぱり! いつから?


 そう聞かれて記憶をさかのぼってみるけど、明確にいつからなのかはわからない。

 睡眠仲間だと言い聞かせていた時期もあった。

 けど、もしかしたら、それよりも前から恋に落ちていたのかもしれない。

鈴城 夕凪
まさか、さっきじゃないよね?
茨野 透花
茨野 透花
それは、違うわ。けど、たぶん出会った時には無意識に好きと思ってたかも
鈴城 夕凪
へぇー! それは意外。
さっきの動揺っぷりを見ると、今までは落ち着いてたし
茨野 透花
茨野 透花
そう見えてただけよ?
私、心の中ではいつも大慌てなの
鈴城 夕凪
じゃあ、今までも望に心の中をひっかきまわされてたんだね
茨野 透花
茨野 透花
そうよ。本当に意地悪なんだから
鈴城 夕凪
けど、それって透花ちゃんにだけなんだよ。だから、望なりの愛情表現かもね
茨野 透花
茨野 透花
そんなの恥ずかしくて身が持たないわ!
鈴城 夕凪
けど、恋ってそんなものなんじゃないかな? 恥をかいたり、悲しくなったり、ちょっとしたことで幸せ感じたり、すごく忙しいよね。


 鈴城さんはほおを赤く染め、恋する乙女の瞳をしている。

 そんな彼女を見て私は息をのんでしまう。

茨野 透花
茨野 透花
……まさか、鈴城さんも……望のことを?
鈴城 夕凪
え!? ちがう、ちがう!!
私はりつが好きなの!
茨野 透花
茨野 透花
桜庭さくらばくん!? そうだったのね!
鈴城さんはいつから好きなの?
鈴城 夕凪
幼稚園ようちえんの時、かなぁ?
茨野 透花
茨野 透花
じゃあ、幼馴染ってことね!
素敵すてき
鈴城 夕凪
んー、素敵なことなんてないよ?
お互いのことよくわかってるから、
扱いとかざつだったりするし
茨野 透花
茨野 透花
いいじゃない!
とっても特別感があるわ
鈴城 夕凪
うーん、けどさ?
やっぱり、たまには大切にされたいなー、
なんて思っちゃうよ


 ふてくされたようにほおふくらませる鈴城さんの可愛さに、私は笑みが零れてしまう。
茨野 透花
茨野 透花
2人はもう付き合ってるの?
鈴城 夕凪
え、……まだだよ
茨野 透花
茨野 透花
いつも一緒にいるのに、意外ね
鈴城 夕凪
それは、幼馴染の特権ってだけかな
茨野 透花
茨野 透花
鈴城さんも大変な恋をしてるのね
鈴城 夕凪
って、私の話じゃなくて!
今大変なのは透花ちゃんでしょ?
茨野 透花
茨野 透花
そうね!
はっきり言って、……私やっぱりおかしいわよね?


 そうたずねてみると、鈴城さんは私をじーっと見つめて指をさす。

鈴城 夕凪
ずばり、透花ちゃん初恋でしょ?
茨野 透花
茨野 透花
そうよ! わかるの?
鈴城 夕凪
色んな事において、透花ちゃんの反応って初々ういういしいよね!
恋バナも初めてと見た!
茨野 透花
茨野 透花
当たりよ!
こんな風に女の子とお話しできて、実は気分が上がっているわ!
鈴城 夕凪
んー、じゃあやっぱり慣れるしかないかなぁ。けど、透花ちゃんて恥ずかしがり屋さんなんだっけ?
茨野 透花
茨野 透花
そうね。極度の恥ずかしがり屋よ
鈴城 夕凪
あははっ、そんな堂々と言わなくてもっ
茨野 透花
茨野 透花
知っててもらえる方が話しやすいってわかったの
鈴城 夕凪
あー、はははっ、なるほどねぇ
茨野 透花
茨野 透花
望に触れられただけで、今までよりもなんだか恥ずかしいの!
鈴城 夕凪
ふむふむ、それは望を異性ってちゃんと意識し始めたってことじゃない?
茨野 透花
茨野 透花
え? 望のことは最初から男の子と思ってたわ


 鈴城さんはうーん、とうなり、説明の仕方に悩んでいるようだった。

 私も男の子と意識するとはなにか考えていると、「狼になっちゃうよ」という望の言葉を思い出す。


 それだけで私は全身が熱くなり、変な想像をしてしまう。

茨野 透花
茨野 透花
わ、わかったわ。確かに、鈴城さんの言う通りかも
鈴城 夕凪
思い当たるふしがあった?
茨野 透花
茨野 透花
昨日、……望がぁ――
鈴城 夕凪
え、なに? 透花ちゃん、もう少し大きな声で言って
茨野 透花
茨野 透花
だから、望が狼になっちゃうなんて言ったからよ!!!


 外にいることも忘れ、恥ずかしさのあまり勢いで声を張り上げると、その言葉は空いっぱいにひびき渡った。

 そんな私を見て、鈴城さんは口を手で押さえて笑いをこらえている。

鈴城 夕凪
と、透花ちゃん、それはっ、ふふふっ、声が大きすぎるかも
茨野 透花
茨野 透花
……っ!! とにかく、それで触られたのが恥ずかしかった気がするわ
鈴城 夕凪
望ったら詰めが甘いなぁ。けど、これはますます透花ちゃんに慣れてもらわないと進まないかも
茨野 透花
茨野 透花
そうよね。
……聞いてくれてありがとう、鈴城さん。
少し落ち着いたわ
鈴城 夕凪
それならよかった。いつでも相談して! まぁ、私も片思い中だからいいアドバイスはできないけど
茨野 透花
茨野 透花
こうして話せるだけでうれしいわ!
これも全部、望のおかげよね
鈴城 夕凪
望? なんでそこで望が出てくるの?
茨野 透花
茨野 透花
だって、望が居なかったらこうして鈴城さんと話せるようにはならなかったわ
鈴城 夕凪
あー、そう言われれば望がきっかけかな。
けど、望が透花ちゃんと絡んでたって、いい子じゃなかったら仲良くなってないよ。
こうやって今、私と透花ちゃんが友達なのは、透花ちゃん自身の魅力があってこそ。ね?
茨野 透花
茨野 透花
……なるほどね。
ふふっ、ありがとう鈴城さん
鈴城 夕凪
いえいえー! じゃあ、そろそろ戻ろー


 こんな風に女の子の友達とお話ができる日が来て、私は胸いっぱいの幸せを感じられた。

 望への感謝の気持ちはなくならないけど、私は自分にも少し自信が持てた気がする。






プリ小説オーディオドラマ