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第9話

変わらなきゃいけない時


 望の弱った姿を見た日から、私は朝早く登校するようになった。

茨野 透花
茨野 透花
(もしかしたら、望がいるかもしれないしね。念のため)


 それが杞憂きゆうで終われば、私は安心して彼の机で眠りにつく。



 いつもこの時間は誰もいないけど、今日は珍しく廊下の向こうに1人の女の子が見えた。

 見たことがある彼女に挨拶をしようとしたけど、その子は耳を疑うような言葉を私に突き刺す。

???
キモイんだよ。無表情女
茨野 透花
茨野 透花
っ……


 今まで向けられてこなかった悪意を正面から受け、私は放心して立ちつくしてしまう。

茨野 透花
茨野 透花
(……うぅん、今までなかったのが不思議なくらいよね。私、みんなが思うような人じゃないし)


 それでも「無表情女」という的を射た言葉が胸に刺さる。



 真摯しんしにその言葉を受け止め、私は強張こわばっているほおを揉み、笑顔を意識する。

 けど、手鏡に映る私の笑顔はどうにも不格好で、どうすればいいものか思いあぐねてしまう。



 教室について椅子に座ろうとすると、机から水がしたたる音が聞えてくる。

茨野 透花
茨野 透花
(水の音? なんで私の机から……)


 中に手を入れると、置いてあった教科書は泥水まみれにになっていた。

茨野 透花
茨野 透花
(これ……、もしかしてさっきの子が? けど、こんなことしなくても……)


 私はもうれてしまっている教科書を水道まで持っていき、仕方なく泥を洗い流す。

茨野 透花
茨野 透花
(どうやって乾かそう……。重たいものをのせればしわにならないと思うけど、この量は……)


 机に入っていた教科書やノートは全滅で、全部で8冊ほど。

茨野 透花
茨野 透花
(あの子がなんでこんなことをするかわからないけど、今まで望に甘えて変わろうとしなかった私の自業自得よね)








 それから私は濡れた教科書とノートを、使われていない資料室で密かに乾かした。

 みんなが登校する頃に教室へ戻り、いつもより笑顔を心掛ける。

茨野 透花
茨野 透花
望、おはよう!
草飼 望
草飼 望
透花? おはよう、なにか良いことでもあったの?
茨野 透花
茨野 透花
いいえ、いつも通りよ
鈴城 夕凪
朝からこんな調子。透花ちゃんがこんなに笑顔なことあんまりないのに、なにがあったのか教えてくれないの
草飼 望
草飼 望
ふーん


 私をじっと見つめる望に笑い返せば、彼は怪訝けげんそうな表情をみせる。

茨野 透花
茨野 透花
(不自然過ぎたかしら?)
茨野 透花
茨野 透花
(けど、3人に心配をかけたくはないし……)


 私は自然にしようとして話題を無理矢理探した。

茨野 透花
茨野 透花
そういえば! 望も珍しいじゃない。HRが始まるで寝ないの?


 そう尋ねると、もうそばに鈴城すずしろさんと桜庭さくらばくんはいなくなっていて、望は席についていた。


 私は焦っていたせいかいつもより声を張っていて、みんなの視線がこちらに集中する。

先生
ははっ、もうHR始まってるぞ、茨野。草飼、寝るなよー
草飼 望
草飼 望
はーい
茨野 透花
茨野 透花
(嘘!? いつの間にか時間になってたの!?)


 空回ってしまい軽く深呼吸をしていると、彼が小声で話しかけてくる。

草飼 望
草飼 望
絶対なにかあったでしょ?
茨野 透花
茨野 透花
何もないってば。……少し、笑顔の練習をしてるだけよ
草飼 望
草飼 望
本当かなぁー?
茨野 透花
茨野 透花
……それより、笑顔自然にできてた?
草飼 望
草飼 望
うーん、ちょっと固いっていうか、貼り付けた笑顔って感じかな
茨野 透花
茨野 透花
……そう
草飼 望
草飼 望
そんな無理して笑うことないと思うけど
茨野 透花
茨野 透花
だめよ。……私の悪いところだもの


 私はその後も不自然らしい笑顔を練習し続けていたけど、望からはあまり好評ではなかった。

 鈴城さんや桜庭くんは新鮮でいいと言ってくれたけど、なにが足りないのかわからない。



 下校時間になってみんなで下駄箱まで行くと、私はなんだか嫌な予感がした。

茨野 透花
茨野 透花
……っ
茨野 透花
茨野 透花
(靴の中に虫だなんて……、古典的ないじめね)


 その光景はなかなか精神的に来るものだったけど、昇降口のガラスに映る私は表情が1ミリも変わっていなかった。

茨野 透花
茨野 透花
(笑顔だけじゃないのよね。……そもそも表情に出にくいんだから)
桜庭 律
ん? 茨野さん、手止まってるけど、どうかした?
茨野 透花
茨野 透花
なんでもないわ!


 気づいてしまった桜庭くんに笑いかけ、私は見られないように靴を自分の体の後ろに隠し、中の虫を落とした。


 桜庭くんの後ろから望が私を見ていて、その目は私の行動の不自然さに気付いているようだった。

茨野 透花
茨野 透花
(望の目を誤魔化ごまかすのって、思ったより大変ね……。本当によく見てるわ)
茨野 透花
茨野 透花
(けど、これは私の問題なんだから、自分で何とかしなきゃ……)