第1話
本当のいばら姫は……
今日は2年生になって初めての登校日。
クラス分けのプリントを持っている手はほんのりと汗が滲んでいる。
階段を上った目の前の教室はすでにドアが開いていて、私は少し立ち止まってゆっくりと深呼吸をする。
教室から女の子たちの笑い声が聞こえ、勇気を振り絞って中へ入る。
そこには10人ほどの生徒がいて、いくつかのグループに分かれて談笑していた。
笑い声を上げていた女の子と目が合うと、その子は小さく声を漏らす。
私は向けられた視線を避け、席順の書かれた黒板を見に行く。
今までボーっと見ていた黒板をしっかり確認してみると、五十音順なのは間違いないのに、私の名前は1列目にも2列目にもなかった。
彼女はクラス分けのプリントを見ながら私にそう尋ねた。
とても嫌な予感がする。
開いているドアから廊下を見ると目の前には階段がある。
けど、少し視線を上げれば、教室札には「2-8」と大きな文字で書かれていた。
私は恥ずかしすぎて顔が強張り、口調が少し速くなってしまった。
もう早く隠れたい、そんな思いで足早に8組を出ていくと、また女の子たちの声が聞こえてくる。
朝から緊張し続けた挙句こんな失敗をして、すっかり出端を挫かれてしまった。
精神的に疲れが溜まってしまう。
廊下の端にたどり着き、私は教室札が「2-1」であることをしっかりと確認して中に入る。
すぐに黒板を見に行こうとしたけど、それよりも目を引く男の子がいた。
廊下側から1列目、前から3番目の席に座っている彼は、腕を枕にして気持ちよさそうに眠っている。
ふわふわの髪の毛や雰囲気がとても柔らかく、まるで羊のよう。
その子を横目に見ながら黒板を確認すると、私の席は眠っている彼がいるところだった。
顔を覗きこんでみれば、幸せそうに微笑んでいる寝顔に思わず見惚れてしまう。
よく見てみると彼の腕の下には「バイト許可願い」の用紙が敷かれていた。
その名前の欄に「草飼望」と書かれている。
彼の席に座りぼーっと寝顔を眺めていると、1つあくびが漏れてしまう。
そのまま誘われるように私の瞼はゆっくりと閉じた。
なんだか気になるけど、ふんわりとした良い寝心地にあらがえず、私は眠りに落ちていった。
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