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第15話

おやすみ
1,071
2021/05/19 09:00


 夕日で赤く染まる帰り道。

 これから始まる話に期待がふくらみ、体に熱がこもっているような気がする。

 今までにない感覚に、私は緊張きんちょうよりも高揚感こうようかんを強く感じていた。

草飼 望
草飼 望
ふふっ、透花とうか、顔が笑っちゃってるよ
茨野 透花
茨野 透花
え、……うそ。
私、笑えてる?
草飼 望
草飼 望
うん、かわいい笑顔だね




     ドキッ




 きっと、同じ気持ち、そう信じたい私はただ彼の言葉を待っていた。

 けど、言葉よりも先に触れる熱い指先。

 彼は逃げない私の手をとらえて、絡めるように恋人繋ぎをした。

草飼 望
草飼 望
もうわかってると思うけど、俺、透花が好きだよ。
本当はもっと早く言おうと思ってたんだけど、透花の心の準備ができるまで待ってた。
俺は、同じ気持ちだって信じてるから
茨野 透花
茨野 透花
待っててくれて、ありがとう。
私って、色々と遅れてるわよね。
仲のいい友達だって、この歳になって初めてできたのよ?
草飼 望
草飼 望
タイミングが合わなかったり、透花の恥ずかしがり屋なところでタイミングをなくしたり、それは仕方がないよ
茨野 透花
茨野 透花
望に助けてもらってばかりの私なのに、いいの?
草飼 望
草飼 望
俺もたくさん助けてもらったから、おあいこだと思わない?
茨野 透花
茨野 透花
それがわからないのよ。私にとってもいいことだったら、望だけの得じゃないじゃない。私が多くもらい過ぎなのよ。わかる?
草飼 望
草飼 望
あははっ、いいんだよそれで。俺も同じだってば。
透花は自分で思っているよりも俺に色んなものをくれてるよ


 立ち止まって私の顔を覗き込む彼は、なんだかずるい気がした。

 いつも私を甘やかして、恥ずかしがらせて、追い込み漁でもされている気分だ。

 私もやり返したいと方法を考えていると、望の耳がほんのり赤みを帯びているように見えた。


 私は彼の肩に手をついて、耳に息を吹きかける。

茨野 透花
茨野 透花
ふーっ
草飼 望
草飼 望
ふわぁっ!? と、透花!?


 予想は的中し、彼は顔まで赤く染めてしまう。

茨野 透花
茨野 透花
いつもの仕返しよ。
たまにはこうやってやり返すからね
草飼 望
草飼 望
……それ、最終的に困るのは透花になるとおもうけど、いいの?
茨野 透花
茨野 透花
そういうことを言ってると、
また避けるわよ!?
草飼 望
草飼 望
ははっ、本当に表情がころころ変わるようになってきたね。
これからが、楽しみだなぁー
茨野 透花
茨野 透花
あら、私はまだ返事を返してないけど?
草飼 望
草飼 望
あ、そうやって意地悪するの?
茨野 透花
茨野 透花
望はいつもしてるでしょ?
少しくらいいいじゃない!
草飼 望
草飼 望
うーん、けど、
答えはらさずに教えてよ。
俺はこれからも透花と一緒に眠って、起きて、色んな表情を見せてほしいと思ってるよ


 彼は私に向き合って両手を包み込むと、額にキスを落とす。


 恥ずかしいことをサラッとしてしまう望が少し憎たらしい。

 けど、彼のそんなところも好きなのだから、私は重症だ。

茨野 透花
茨野 透花
……はぁ、……望が好きよ。
あなたといると私はどんなことでも頑張れるし、あなたの幸せな寝顔をずっと守りたいわ
草飼 望
草飼 望
ふふっ、かっこいいね
茨野 透花
茨野 透花
本気なんだから、茶化さないで
草飼 望
草飼 望
ごめん、すごく嬉しいよ。
俺も透花の繊細なところ守ってあげたいと思ってる。
これからも大切にするから、よろしくね
茨野 透花
茨野 透花
えぇ、これからもそばにいさせてね


 日も沈みはじめ、望はバイトに行く時間が迫っていた。

 気持ちが通じ合ったのに、なんだか名残惜しいけど、私は彼の頬を撫でることで我慢した。

茨野 透花
茨野 透花
バイト無理しないようにね
草飼 望
草飼 望
ありがとう!
透花、今日は俺の夢を見てね
おやすみ
茨野 透花
茨野 透花
えぇ、望を考えて寝るわね。おやすみ

























 次の日の朝、恋人同士になったことを周りに知らしめたいのか、椅子に座っている望は私を膝に乗せて離さない。

茨野 透花
茨野 透花
ちょっと、調子に乗り過ぎよ!
恥ずかしいって言ってるでしょ
草飼 望
草飼 望
これは避けられてた分だから、
大人しくして!
俺がどれだけ寂しかったかわかる?
桜庭 律
おーい、痴話げんかならよそでやれ。
人が集まってくる
鈴城 夕凪
望はもっと透花ちゃんの羞恥心を気にしてあげなよ
草飼 望
草飼 望
だって、かわいいんだもーん
茨野 透花
茨野 透花
もうやめてよー! このまま眠るわよ!?
草飼 望
草飼 望
いいよ、俺は透花を抱き枕にして寝るから
茨野 透花
茨野 透花
だから、もうっ!!



 彼と眠る日々がこれからも続けばいい。

 「おやすみ」と「おはよう」を繰り返して、いつまでも。






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