ふわふわの羊にすり寄られているような心和む感触で、私はまどろみから覚める。
瞼を開けて一番に目にしたのは、私の顔を覗き込む草飼望だった。
彼は机にあごをのせ、優しく微笑んで私の頭を撫でている。
ドキッ
私が起きても彼はずっと頭を撫で続けていた。
じっと見つめれば、彼ははにかんで手を離してくれる。
先生が教室に入ってきたことで顔を上げると、そこでやっと、みんなの視線が私たちに集まっていることに気づく。
私はさっきまで彼が座っていた自分の席に戻り、先生の声だけに頭を集中させた。
そうすれば皆も前を向いてくれたけど、左隣の席にいる彼だけはまだ私に熱い視線を注いでいる。
彼は私の方に顔を寄せ、秘密でも話すように囁く。
彼は屈託のない笑みを見せると、満足したのか先生の話を聞き始める。
憧れの、同級生との雑談が叶い、私は思わず足をぱたぱたと動かしていた。
後ろから聞こえてくる会話に耳を傾けていると、彼がまた私に声をかけてきた。
私は彼の顔を見ながら筆箱をあさり、消しゴムを差し出す。
気合を入れて辺りを見渡してみたけど、みんなすでにグループが出来上がっていた。
せっかくのチャンスもうまく活かせず、どうしたものか悩んでいると、隣の彼の周りには人が集まっていた。
朝の決意はどこへやら、話しかける勇気すら出てこない。
やっぱり、2年生でやり直すのなんて無理なのかもしれない。
私は彼らから視線を逸らし、腕を枕にして寝る体勢に入る。
そう言って彼は笑みを浮かべ、私の頭を綿毛が触れるような柔らかさで撫でる。
いっせいにみんな移動を始め、私はその流れのままついていった。
彼が誰にも話しかけられていないのを見計らって「ありがとう」と言うと、不思議そうに首を傾げている。
そして何か言おうとした瞬間、彼は口を押えてあくびを漏らしていた。
緊張で強張っていた顔は自然とゆるみ、彼の無邪気さに笑みがこぼれてしまう。
この時だけは緊張なんてせず、彼と笑って話せていたと思う。
恥ずかしいことばかりだけど、みんなのように私も彼に惹かれ始めていた。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。