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第2話

羊くんはマイペース


 ふわふわの羊にすり寄られているような心和む感触かんしょくで、私はまどろみから覚める。

草飼 望
草飼 望
おはよう、可愛いいばら姫ちゃん


 まぶたを開けて一番に目にしたのは、私の顔をのぞき込む草飼望くさかい のぞむだった。

 彼は机にあごをのせ、優しく微笑んで私の頭をでている。




     ドキッ



茨野 透花
茨野 透花
(可愛いって……!? そんな呼ばれ方初めてよ!? 近いし!!
この子なんでずかしいことをするの!?)
茨野 透花
茨野 透花
(……けど、この寝起きの良さ、悪くない起こし方ね)
茨野 透花
茨野 透花
おはよう。……起こしてくれたのね、ありがとう
草飼 望
草飼 望
うぅん、俺席をまちがえてたみたいで、ごめんね
茨野 透花
茨野 透花
大丈夫よ。まちがうことなんて……誰でもあるでしょ?
草飼 望
草飼 望
ははっ、そうだね。ありがとう、いばら姫ちゃん優しいんだね
茨野 透花
茨野 透花
普通よ。……それより


 私が起きても彼はずっと頭を撫で続けていた。

 じっと見つめれば、彼ははにかんで手を離してくれる。

草飼 望
草飼 望
あぁ、ごめんね! なんか疲れてるように見えて、撫でてあげたくなっちゃったんだ
茨野 透花
茨野 透花
(疲れ? いつも顔に出たりしないのに……)
先生
ほらー、席つけよー。HR始めるぞー


 先生が教室に入ってきたことで顔を上げると、そこでやっと、みんなの視線が私たちに集まっていることに気づく。

茨野 透花
茨野 透花
(こんなに見られてたの!?
もうっ! 今日は恥ずかしいことばっかりね……)


 私はさっきまで彼が座っていた自分の席に戻り、先生の声だけに頭を集中させた。

 そうすれば皆も前を向いてくれたけど、左隣の席にいる彼だけはまだ私に熱い視線を注いでいる。



 彼は私の方に顔を寄せ、秘密でも話すようにささやく。

草飼 望
草飼 望
ねぇ、いばら姫ちゃん
茨野 透花
茨野 透花
……なに?
草飼 望
草飼 望
なんで俺を寝かしておいてくれたの?
茨野 透花
茨野 透花
(なんで? そんなの――)
茨野 透花
茨野 透花
幸せそうに眠ってたからよ。気持ちよく眠れる時間って大切でしょ?
草飼 望
草飼 望
っ! そうだね!
頭を撫でてあげたら、いばら姫ちゃんも幸せそうだったけど、気持ちよく眠れた?
茨野 透花
茨野 透花
そこそこ、ね
草飼 望
草飼 望
あははっ、それなら良かった


 彼は屈託くったくのない笑みを見せると、満足したのか先生の話を聞き始める。

茨野 透花
茨野 透花
(……もしかして、私今ふつうに同級生と談笑していた?)


 憧れの、同級生との雑談が叶い、私は思わず足をぱたぱたと動かしていた。




女子生徒1
ねぇ、机交換して2人で寝てるのかわいかったよねー。睡眠コンビ誕生って感じ?
茨野 透花
茨野 透花
(私と草飼くんの話よね?)
女子生徒2
わかる、お似合いだったよね。グッバイ、私の恋心
女子生徒1
ははっ、やば! そういえば1年の頃から羊くんのこと好きなんだっけ?
女子生徒2
むしろ好きじゃない子いるの!?
顔が整い過ぎの美少年だよ?
しかも、みんなに優しくて意外と頼りがいある!
女子生徒2
まぁ、私はガチ恋ではないかなー。
マイペース過ぎて空気読めないとこあるじゃん
女子生徒1
わかってないなぁー、そこもかわいいんだって!
ふわふわマイペースな羊くん! うちの学校のアイドル!


 後ろから聞こえてくる会話に耳をかたむけていると、彼がまた私に声をかけてきた。

草飼 望
草飼 望
いばら姫ちゃん。ごめん、消しゴムかしてくれない?
茨野 透花
茨野 透花
(確かに美形。その上接しやすいし、人気なわけね)


 私は彼の顔を見ながら筆箱をあさり、消しゴムを差し出す。

茨野 透花
茨野 透花
どうぞ
草飼 望
草飼 望
あー、それはシャー芯のケースかな?
茨野 透花
茨野 透花
っ!? ごめんなさい。こっちね
茨野 透花
茨野 透花
(よそ見するからよ! しっかりしなきゃ)
草飼 望
草飼 望
ありがとう!
茨野 透花
茨野 透花
(笑顔が綺麗な子……。私もそんな風になりたい)
先生
じゃあ、HRは終わりなー。
次の時間は体育館で始業式だから、各自移動しとけー
茨野 透花
茨野 透花
(誰かと談笑しながら体育館へ移動。友達を作るチャンスね)


 気合を入れて辺りを見渡してみたけど、みんなすでにグループが出来上がっていた。

茨野 透花
茨野 透花
(2年って新しいクラスでも少しは友達いるものね。
出来上がってるところって……、入りづらいかも)


 せっかくのチャンスもうまく活かせず、どうしたものか悩んでいると、隣の彼の周りには人が集まっていた。

桜庭 律
望ー、寝るなよ行くぞー
草飼 望
草飼 望
えー、少しだけー、5分だけー
鈴城 夕凪
だーめ! 今まで5分で済んだことないでしょ?
女子生徒1
ねぇ、草飼くん! うちらも一緒に行ってもいい?
草飼 望
草飼 望
んー? いいよー、みんなで行こっか
女子生徒2
やったー! 羊くんと話してみたかったんだよねー
茨野 透花
茨野 透花
(羊くんは本当の人気者ね。
噂の内容が本当の草飼くんと偽物の私ならこうなるか……)


 朝の決意はどこへやら、話しかける勇気すら出てこない。

 やっぱり、2年生でやり直すのなんて無理なのかもしれない。


 私は彼らから視線を逸らし、うでまくらにして寝る体勢に入る。



 
茨野 透花
茨野 透花
(私は5分だけ寝よう)
草飼 望
草飼 望
あ、いばら姫ちゃん寝ちゃうの? それなら俺も少しだけ
茨野 透花
茨野 透花
(え……?)
鈴城 夕凪
ちょっと、望。その呼び方はどうなの?
草飼 望
草飼 望
え、なんで? みんなそう呼んでるじゃん
桜庭 律
そりゃお前の「羊くん」と一緒。ごめんな、茨野さん
鈴城 夕凪
バカなの、許してやって
茨野 透花
茨野 透花
大丈夫よ。それより、草飼くんはお友達が待ってるんだから、眠って待たせるなんてだめよ
草飼 望
草飼 望
え? そんなこと言ったら、いばらのちゃん? もそうでしょ!
茨野 透花
茨野 透花
私?
草飼 望
草飼 望
みんなって言ったじゃん。ほら、起きてー


 そう言って彼は笑みを浮かべ、私の頭を綿毛が触れるような柔らかさで撫でる。

桜庭 律
じゃあ、2人が寝る前に行くか


 いっせいにみんな移動を始め、私はその流れのままついていった。

 彼が誰にも話しかけられていないのを見計らって「ありがとう」と言うと、不思議そうに首を傾げている。


 そして何か言おうとした瞬間、彼は口を押えてあくびを漏らしていた。

草飼 望
草飼 望
始業式って立ちっぱなしだから少し寝たかったよねー
茨野 透花
茨野 透花
……ふふっ、そうね


 緊張きんちょう強張こわばっていた顔は自然とゆるみ、彼の無邪気むじゃきさに笑みがこぼれてしまう。

草飼 望
草飼 望
あ、そうだ。名前なんて言うの?
茨野 透花
茨野 透花
茨野透花いばらの とうか
草飼 望
草飼 望
じゃあ、透花ね。俺は望って呼んで
茨野 透花
茨野 透花
(いきなり呼び捨てはハードル高くない!?)
茨野 透花
茨野 透花
の、望?
草飼 望
草飼 望
ははっ、なぁに? 練習?
茨野 透花
茨野 透花
慣れてないのよ
草飼 望
草飼 望
なら、いくらでも呼んで練習して、透花
茨野 透花
茨野 透花
頑張るわ


 この時だけは緊張なんてせず、彼と笑って話せていたと思う。


 恥ずかしいことばかりだけど、みんなのように私も彼にかれ始めていた。