「茜、あの子、わたしが好きな人」
「えっ……、そうなの? 頑張ってね! 応援してる」
できる限り普通に笑ってそう答えた。波奈には気づかれていない、と思いたい。
「茜? なんか笑顔がひきつってなぁい? 気のせい?」
友達の一人、優奈の一言に、私は内心大慌てだった。ひきつっていて当然だ。
「き、気のせいだよ! 私、波奈のこと大好きだから、本当に応援してるから!」
「ありがとう」
薄い茶色の長い髪に大きな目、きめ細かくて白い肌、枝みたいに細くて雪みたいに白い指……。波奈はかわいい。すごくかわいい。私の何倍も。私にかなう相手ではない。女の私でも、波奈が笑うとはっとするほどだ。
「ねえっ、茜は好きな人いないの?」
優奈がちょっとだけ私をつつく。優奈もやっぱりかわいい、と見るたびに思う。
「あ、私も気になる!」
やっぱりかわいい。初恋の人は、絶対に私なんかより波奈を選ぶだろう。
「いないなぁ……」
「えー、いないの? つまんない……」
「つまんないって……。ほんとにいないんだもん、仕方ないじゃん」
「できたら教えてよ? 応援するから!」
笑いながら波奈は私の肩を叩いた。かわいい顔をしてるけどこういうときだけなぜか力が強いのだ。
「えっ、茜、私にも教えてよ?」
「一番に二人に教えるから安心して?」
「よろしく頼むよ!」
「うん、もちろん」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!