「はああっ……」
「おはよ、藤岡さん。どうしたの、ため息なんかついちゃって?」
いきなり意中の彼が話しかけてきた。正直なところ、びっくりした。
「ひやっ! 結城くん! ううん、何でもないよ?」
「あのね? おれ、そんな鈍感に見える? 藤岡さんが悩んでることぐらいわかるよ?」
少し近づいてきて、彼は胸を叩いた。少し近づかれただけでドキドキするなんて、やっぱり私は「恋」をしている。
それにしても、やっぱり結城くんは素敵だ。波奈が好きになるのもうなずける。
「あは、ばれちゃった? まあ、なんにもないことはないんだけとね……」
「僕でよければ聞くよ?」
「ありがと。でも、大丈夫だよ。悩んでるって言うか、部活嫌だなぁって思ってただけだから」
ちょっとだけ意識して、可愛く笑ってみた。波奈には敵わないって分かっているのに、ついつい気を引きたいと思ってしまう自分がいる。
「あー、分かる。部活があると別に嫌じゃないけど憂鬱になるんだよね」
結城くんが笑った。結城くんの笑うのは、本当に見ていて飽きない。かっこいい。
「そうなんだ! わりとスポ根なイメージあるからちょっと以外だなぁ」
自分の声を聞いて思った。波奈としゃべるときとトーンが少し高い。ついでにテンションも高い。
「マジで? 何で? 運動そんなに好きじゃないよ?」
「そうなの? でもすごい運動できるじゃん?」
「まあ、出来ないって言ったら藤岡さんにじゃあ私はどうなるの、って言われそうだから出来ないとは言わないでおく」
今度の笑顔はなんだかいたずらっぽい。もう、私ったら。考えていることがストーカーだ。結城くんに知られたらもう生きた心地がしないだろう。もしかしたら恥ずかしすぎて火を噴いているかも知れない。
そんなことを考えているうちに、人気者の彼は呼ばれたのか、いつの間にかいなくなっていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!