「ね、茜ちゃん」
「なに、藤城くん」
はっきり言うと鬱陶しい声を聞いて、私はあえてゆっくり振り返った。
「あのさ、やっぱり僕、茜ちゃんのこと好きです。付き合ってもらえませんか」
「……ありがとう。だけどさ、何回も言ってるよね。私、君の気持ちには応えられないって」
藤城くんの表情は一切変わっていなかった。
「付き合ってる人がいるって、言ってるよね?」
「え、ほんとに?」
彼が初めて表情を変えた。うそでしょ、聞いてなかったの、と思う。私は三回も同じことを言っているのに、三回とも聞いていなかったようだ。
「ほんと。まさか三回とも聞いていなかったなんてね。いいよ。証明してあげる。彼に電話かけるね」
私はわざと微笑んでスマホを取り出した。
「もしもし? 颯太? ちょっとだけいい?」
「いいけどどうしたの?」
はい、自分で聞いて、と私は藤城くんにスマホを渡した。
「え、えっと、茜ちゃんと付き合ってるってほんとですか?」
「ほんとだけど、なに? どうしたの? てか誰?」
彼の声からはっきりと戸惑いが伝わった。藤城くんも慌てて名乗る。
「あ、茜ちゃんと同じクラスの藤城って言います……」
「あ、名前は知ってる。え? なんでそんなこと聞くの? しかも茜のスマホから?」
「あ、えっと……」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。