「ねぇ?あなた?起きれる?」
意識が朦朧とした中、聞き覚えのある声
『ん...じょん...ぐ..??』
視界に映る人影はぼやけていて顔は確認できないけど彼だという確信はあった。
「そ。どう?気分は?」
『...悪い...気がする...』
そう、本当にすこぶる悪い。頭は石にでもなったみたいに重たいし、身体も鉛みたい。
「...お水飲める?眠っちゃう前に少しでも飲んで。」
そう言って彼は重い頭を支えてくれた。
クピッと水をひと飲みして、私の意識はまた遠のいた。
----3時間前-----
やっぱり、合コンなんて来るんじゃなかったな...
私は一人でそんなことを考えていた。
正直全然乗り気じゃなかった。でも仕方ない。幼馴染の頼みだったんだから。
幼馴染で同僚のスアに頼まれて、来たくもない合コンに来てまもなく2時間が経とうとしていた。
そろそろお開きのはず、、、
2次会はパスしよう、スアも良い人を見つけたみたいだし、、、
チラッと横に目をやると、顔をタコみたいに赤くして、楽しそうに笑っているスアが目に映った。
「大丈夫!ちゃんとあなたの隣に座るから!つまんなかったら私とおしゃべりしてればすぐだって!」
そんなことを言っていた彼女はどこへやら、、
『まぁ、そんなことだろうと思ってたけどね、、』
つぶやいて腕時計に目をやる。
すると、目の前に座っていた男性に手招きされた。
耳を貸せってか...??
少しだけ顔をかたむけると、
「このあと、抜けない?」
と一言。
ため息をつきそうになるのをぐっと飲み込んだ
『いえ、私は一次会で失礼します。』
「えぇ〜、なんで?せっかくの出会いの場なのに〜」
『...友達の付き添いだったので。今回は出会いを求めていません。』
「ふーん?もしかして彼氏もち?遊び相手くらい見つけていけば良いのに」
そう言いながらピッチャーに手を伸ばすと、人のグラスに勝手にドリンクを注ぐ。
なんだこいつ、デリカシーないな。女友達は多いけど絶対モテないタイプだ。
...もちろん口には出さない。
『彼氏がいたら流石に付き添いでも来ません。明日も予定があるので帰るだけです。』
必要以上の情報は与えないように、素っ気なく返した。
「へぇ...そぅ。」
面白くなさそうに答えてグラスを差し出してきた。
「ピッチャー、空にしときたくてさ?一杯いける?」
『あぁ、はい、ありがとうございます。』
グラスを受け取ってウーロンハイに口つけた。今思えば、この時に気づくべきだった...。
いよいよお開きにしようって頃になって、自分の身体に異変が生じているのに気がついた。
『...?? (身体が重い...)』
お酒は大して飲んでないのに、酔っ払ってる時みたいに視界が歪む。
そんな私に気がついてスアが声をかけてきたけど、せっかくお気に入りの人を見つけたのに迷惑をけるわけにもいかない。
タクシーに乗ってしまえば、あとはなんとかなる。そう思って店を出た。
「じゃあ、二次会行く人ー!!この指とーまれ!!」
店先でそんなやりとりをしてる参加者には目もくれず、タクシーを探した。
うーん...やっぱり一本通りを出ないとなかなかいないか...。
どこにスアがあるかもわからないけど、とりあえず後ろの集団にさよなら代わりに軽く手を挙げた。
多分ブンブン手を振ってたのがスアかな?
そんなことを思いながら、歪む視界の中で歩き出した。
カタツムリみたいなスピードでフラフラ歩いてると、流石に周囲からの視線も感じた。
早く、、タクシーを、捕まえなきゃ、、
そしてやっと大通りに出ようって時、突然手首をギュッと掴まれた。
急に掴まれるもんだからそのまま後ろにひっくり返りそうになった。
嫌な予感がしてゆっくり振り返ると、案の定、さっきのデリカシー無いマン。
「フラフラしてて心配だったからさ、家まで送るよ(^^)」
そう言って嬉しそうな顔をしてるのを見て心底嫌気がさした。
さてはあの時、、、なんて確証がないまま言えるはずもない。
『...いえ...結構です...タクシーで帰るので...離していただけますか...』
「そんな状態で乗っても、タクシーの運転手さん迷惑でしょ?」
何説教垂れてるんだこいつは。
『っ...大丈夫です...! 』
そう言って手を振り払った。
「チッ...んどくせーな...」
え、今舌打ちしました...??
恐る恐る振り返ると、頭をガシガシしてるデリカシー無いマン、、
「あのさぁ...?? 人の好意無下にするってどうなの?黙って介抱されてればよくない?」
そう言ってグッと腕を引っ張られた。
『..っい ....たい....!』
そんな私の言葉には耳もくれず、強引に腕を引いて、薄暗い通りに向かって歩き出す。
やだ...いやだ...
急に怖くなって目頭が熱くなる。
『っ..! ぃ..や、だ...!!』
思ったよりも大きい声が出た。
周囲の人たちがみんなこっちを見てる。
「なっ..!! なんだよ!!」
流石にヤツも立ち止まってこっちを振り返った。
ポロポロ...
私の目からは涙が溢れて、自分で自分が情けなくなってその場にしゃがみ込んだ。
大丈夫だから、とか安心して、とかなんとか言ってるけど正直どうでもいい。
そんなこと言われたって私はあんたのことが大嫌いだし早く消えて欲しい。
その時
「あなた...?」
周りの音なんか聞くつもりなかったのに。
その声だけは私の耳に鮮明に聞こえた。
聞き慣れた声。 安心させてくれる声。
顔を上げた瞬間、また目頭が熱くなった。
「...あんた、何してんの? 」
聞き慣れた彼の優しい声が突然冷気を帯びた。
「な、に...って...この子が合コンで酔っ払っちゃったから...家まで送ろうと...」
歯切れの悪いヤツの言葉には吐き気まで催す。
「合コン...?? この子の家はこっち方面じゃないはずだけど?」
「...そ、れは..ちょっと休ませた方がいいかt」
「わかったもういいよ。この子は俺が連れて帰るから。ありがとね?おにーさん。じゃあさようなら」
ヤツの話を遮って冷たい言葉を吐いた彼は、優しく温かく私の肩を抱いてくれた。
「あなた...? たてる?」
耳元でそっと囁く優しい声。
あぁ...さっきのヤツとは大違いだ...
また涙が溢れそうになるのを必死に堪えてうなづいた。
ところが、立とうと脚に力を入れているのに少しも身体が持ち上がらない。
まさか、、
『...ジョングガ...ごめ...腰...抜けちゃって..』
チラッと視線をむけると、驚いたような顔でこちらを見つめていた。
うさぎみたいに丸い目がさらにまん丸くなっている。
でもすぐにフッと優しく笑って
「いいよ、大丈夫。帰ろう?」
と言って頭をそっと撫でられた。
そして次の瞬間フワッと身体が浮いた。
『!!??...っ..グガ..! 重いよ...!!』
「重くないよ、むしろ軽すぎるくらい、ちゃんと食べてるの?」
そう言って笑う彼には、こんな状況でも本当になんの不安も感じなくて、
「もう大丈夫だから、安心して?」
そう言われると、今までの不安や恐怖が全部取り払われたみたいで、全身の力がスッと抜けていく感じがした。
そして私はそのまま、グガの腕の中で重い瞼を閉じた。
ーーー・・・
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。