第2話

yoongi #1
172
2021/05/22 08:41

--girl side--

チク タク チク タク
静かな部屋には時計の秒針の音だけが響いてる。


彼が部屋に篭ってからどれくらいの時間が経ったのだろう。


仕事に没頭している時の彼の集中力は凄まじくて、仕事が完遂するまで、あるいはどうしようもなく行き詰まるまで、部屋から出てくることはまずない。



ガチャ...バンッ



作業部屋の重たい扉が開く音に続いて、パタパタと、スリッパの足音が近づいてきた。



...前者か後者か...



『おつかれさま、何か食べる?』



間違っても調子はどう?なんて聞かない。


自然に、なるだけ素気なく、当たり障りのないコミュニケーションをとる。



「ん、」



チラッと目をやると、それはそれは不服そうな顔の彼。


後者か、、


私の質問に対してYesともNoともとれない曖昧な返事をして、ソファにどかっと腰掛ける。



眉間に皺を寄せながらミネラルウォーターを流し込む彼の姿は、自然光だけでも十分すぎるほど綺麗にうつる。


窓の隙間から流れできた風に彼の髪がふわっと靡いた。




ー・・・ 彼に触れたい ・・・ー



『ユンギ』



彼の名前を呼んで、風に靡く柔らかい髪にそっと触れた。



「なに」



案の定、彼の返事には苛立ちが含まれていて、チラッと視線を向けられたがすぐ逸らされた。



それを見てギュッと胸が苦しくなる。



こんな彼を見たのはいつぶりだろう。



彼は人に弱音を吐くのが苦手らしい。



いつも一人で悩んで、抱え込んで、こうして一人で葛藤している。




私が、彼の弱音の吐口になれたら...



こんな弱々しい彼を、支えることができたら...




『....なんでもない...何か、作るね』




今すぐ彼を抱きしめたい気持ちをグッと堪えて答える。




...だって...そんなこと、私には許されないよ。


彼には彼のプライドがある。音楽に関しては誰に負けないくらいの情熱と愛を持っている。


上手くいかなくても、彼は絶対一人で答えを見つけようとする。


それが彼の、愛する音楽との向き合い方。


私みたいな素人が口出しするなんてありえない。


私はあくまで彼の負担にならないように、気の利く彼女でいなくちゃ。


彼にとって必要最小限になるように、彼がめんどくさいと感じないように...






そう思って席をたった瞬間


         グイッ


と右腕を引っ張られ、気づけばソファに押し倒されていた。
 

一瞬何が起きたか分からなくてただ彼を見つめる。




...怒らせてしまった...?? そう思ったら自分に嫌気がさした。


『ご..め...』


ちゃんと言いたいのに言葉が濁る。



「.....なんで謝んの...」



『...ユンギ...の...邪魔した...』



言葉にしたら余計にその実感が湧いてきて、じわっと視界が潤んだ。




「..っ...」



私の言葉に、何か言いかけたように見えたけど、彼はそのまま口をつぐんで困ったような表情を浮かべた。





あぁ...また私が困らせた...



いつもこうだ...ユンギの負担になりたくないのに...いつもユンギを困らせてる。


彼の顔をまともに見れなくてただ目を背ける。




「なんで...目逸らすんだよ...」



聞いたこともないような彼の弱々しい声。



でも...彼の顔を見たら自分の方が泣き出しそうで...






すると、グッと顔の向きを変えられて、彼と目が合う。




『っ...!! 』



ほら、やっぱりそんな顔する...



つらいんでしょ、


泣きたいのはユンギの方でしょ?


でも、私にはあなたを癒す資格なんてないんでしょ?


つらくて悲しそうな顔をしているあなたをただ見ていることしかできないんでしょ?



溜め込んでいた想いが涙と一緒にどんどん溢れてくる。




『っ...ゆん...ぎ....ごめん.....私...じゃ...ダメなのかな..』



言いたくない言葉、言ってはいけない言葉が次々こぼれる。



『ユンギ...頑張ってるのに...私なんにもっ..でき、なくて...ユンギのこと..困らせてばっかり...』






「...そんなことない..」



そう呟いた彼はそっと、瞳にキスを落としてきた。


『っ...、ユン..?』



「チュッ...ペロッ....チュ...チゥ...」





私の溢れた想いを一つ一つ受け止めるように、何度も優しい口づけを落とした。





『んっ...』



彼が涙を舐めたり吸ったりするのが恥ずかしくて、ギュッと目を瞑る。



慰められているのかな...


またユンギに気を遣わせてるのかもしれない...




そんな考えが頭をよぎったけれど、彼が口づけをするたびに、そんなわだかまりさえも解けていくような感じがした。









「...落ち着いた?」


彼の声でゆっくり目を開けると、涙はもう止まっていた。



『う..ん...』



さっきまで悲しくて仕方なかったのに、今はユンギに触れられたことが嬉しいと思ってる。





今なら、良いのかな...




目の前にいる彼にそっと手を伸ばした。


「..??」


『髪、伸びたね...』


「ん? あぁ...」


そう言って私が触れられるように、少し顔を傾けてくれた。


柔らかい髪をそっと耳にかけると、そこにはシルバーのピアスが光っていた。




私がプレゼントしたピアス...まだ付けてくれてたんだ...




そう思ったら彼が愛おしくて仕方なくて、ピアスを触ったり、耳たぶをふにふにしたりしてみた。



「っ...」



彼はなんとも言えない表情をしたけど、相変わらず私が触れられるように顔は傾けてくれてる。



『ふふ...柔らかくて気持ちぃ...』



なんの気なしに呟やくと、



「お前...それ素でやってんの??」


と、ちょっと不機嫌そうな顔をして耳を引っ込められた。




『...?素でやってるって、なにが?』


「いや、いいわ、やっぱ」


『えぇ、なんで?言ってよ〜』




こんな何気ない会話もいつぶりだろう...


出会ってすぐの頃みたい。




「***さ、もうあーゆーこと言うなよ」


『?...あーゆーこと?』


「..邪魔とか、なんもできないとか...」


『...でも...本心だったよ...ユンギは1人で抱え込むから、私は見てるだけで...』


「それは...」


『私ね、何回も考えたよ。私がもっと音楽に詳しくて、ユンギを支えることができたら、って。...まぁ、無理な話だったんだけどね...??』



そう、何回も考えた。私がもっと彼の力になれるような人だったら。いっそ私じゃなければ、彼の力になれる人は他にいるんじゃないかって。




「......」




『ユンギ...??』



急に黙ってしまったのが不安でそっと顔を覗き込んで

チュ

と、唇が触れるだけの優しいキスをする。




彼は一瞬驚いたような表情を浮かべた。




「....足りない」



『え..?』


次の瞬間グイっと引き寄せられ、深いキスをされた。



『んっ...ふ...ぁ..』


生温かい舌が器用に唇を割って入ってくる。



『っ.../// んっ...!』



何度も角度を変えながら

次第に激しさを増していく




酸素を取り込む間も与えないようなキスに頭がぼぅっとする。



もう...むりっ...!!



苦しくて彼の胸を叩くと、チラッと目をやった後、わざとらしく銀色の糸を引きながら名残惜しそうに唇を離してくれた。




『なんっ....急に...!!』



「そーゆーお誘いじゃねぇの?」



『っ...// ち、がう!!』



「はいはい(笑)」


頭をポンポン、と優しく撫でて彼は立ち上がった。


『...仕事戻るの...??』



「ん、戻る。***のおかげで元気出たしな」




『私?』



泣き喚いてただけなのに...??



「また元気もらいに来る。」



そう言って彼は部屋を出て行った。





fin.

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