ピッピッピッピッ
規則正しい音が病室に響く
シュコーシュコー
酸素マスクの向こうの口もとは、
いや、口もとに限らず彼の体はピクリとも動かない
ガラガラ
病室のドアが開く
視線を軽くカナヲに向けてから、伊之助は炭治郎に視線を戻した
伊之助の目が、寂しそうに揺れる
カナヲは伊之助のとなりに立った
生を伝えるはずの音が、二人の耳には今は悲しみを強くする音に聞こえた
今の状態が変わることはないと伝えているようで
まるで、意図されたように
殺す気は無かったと言うように
あの日から、あなたの名前を聞くことはない
偶然とは言いがたいタイミングで
少女は消えた
でも、もし本当に彼女がしたことだとしたら
彼女はなぜ彼らを生かしたのか
考えても、答えが出ることはない
無機質な音は、響き続けていた
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!